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【無料公開】コパ・アメリカに感じた南米特有の熱狂、そして嗜み(2019年6月28日@サンパウロ)

 日本代表がブラジルを去り、コパ・アメリカはいよいよベスト8に突入。すでにブラジルとアルゼンチンが4強進出を決める中、アレーナ・デ・サンパウロ(アレーナ・コリンチャンス )でコロンビア対チリを取材した。ブラジルで観戦する最後のゲームは、準々決勝屈指の好カード。本当は、日本の2位抜けもうっすらと期待していたのだが、やはり考えが甘かったとしか言いようがない。

 ブーイングを浴びながらチリ代表が姿を現したのは、19時48分のこと。それまでピッチの片面でトレーニングしていたコロンビア代表は、すっかり身体が温まっている状況だった。キックオフまであと12分。こんなにギリギリにピッチに入るなんて、何かの作戦だろうか? 結局、彼らは20時02分に撤収。気がついたら、キックオフは20時から20時20分に変更になっていた。あとで知ったのだが、チリ代表のバスが遅れたため、急遽キックオフ時間が変更になったらしい。いかにも南米らしい話だ。

「遅刻の罰」を受けたわけではないだろうが、チリは二度のゴールシーンがいずれもVARで取り消されるという悲哀を味わうことになる。最初は16分。カウンターの展開からアレクシス・サンチェスが左サイドでボールを受け、さらにオーバーラップしてきたジャン・ボセジュールにボールが渡る。ボセジュールの折り返しは、いったんは相手GKにブロックされるも、最後はチャルレス・アランギスがゴールラインぎりぎりの位置から流し込んだ。しかしこれは、サンチェスのオフサイドという判定。

 次は71分。サンチェスからの浮球パスをギジェルモ・マリパンが落とし、最後はアルトゥーロ・ビダルのシュートがネットを突き刺す。しかし今度はマリパンのハンドという判定で、またしてもチリのゴールはならなかった。ちなみに一度目のシーンは、主審がいったんゴールを認めながら判定が覆ったもの。二度目のシーンは、ネットが揺れた直後から「またVARでは?」という空気が漂い、会場内でも「ゴール!」のアナウンスはなかった。

 結局、90分を終えても00のまま、勝敗の行方はPK戦に委ねられる(今大会は準々決勝のみ延長戦は行われない)。先攻のコロンビアは、5人目のウィリアン・テシージョが枠をわずかに左に外して失敗。対するチリは、サンチェスがゴール右隅にしっかり決め、大会3連覇の夢をつないだ。二度のVAR発動によって「試合が荒れた」との報道もあったようだが、小競り合いが起こったのは31分の一度だけ。しかも最後は当事者同士が笑顔で握手して試合再開となっている。むしろクリーンでオープンな試合展開だった。

 試合後はメディアバスを使わず、最寄り駅の『コリンチャンス・イタケラ』まで、20分かけて歩いてみた。両チームのサポーターの様子を確認したかったからだ。どちらも試合結果には納得した様子で、一部のチリサポーターは盛り上がっていたものの、両者とも険悪な雰囲気はほとんど感じられない。南米同士の対戦というと、つい「とにかく熱い!」とか「絶対に負けられない!」といったイメージを抱きがちだが、試合が終われば意外とクールでさばさばしている。それが、この試合でのささやかな発見であった。

 ただ熱狂するだけではなく、長年にわたり真剣勝負を繰り返してきた間柄だからこそ生まれる「嗜み」というべきなのだろうか。われわれ招待国の人間には、どうあがいても得られることのない関係性。日本代表は今大会で多くのものを持ち帰っただろうが、取材するわれわれも5年前のワールドカップとはひと味違った、南米特有のフットボール・カルチャーの一端を肌で感じることができた。そうした僥倖を噛み締めながら、これから帰国の途に就くことにしたい。

<この稿、了>

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