宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】RIOを振り返り、TOKYOを想う 千田善×篠原美也子×宇都宮徹壱鼎談<1/2>

「いちおう」手倉森ジャパンを総括する

――大会そのものを振り返る前に、皆さんすでにお忘れになっているかもしれませんが(笑)、いちおう手倉森ジャパンについて語り合いたいと思います。いちおうサッカーメディアの端くれですので。

篠原 宇都宮さん的にはどうだったんですか、今回の男子サッカー。

――「よくぞここまで頑張った」という見方と、「非常に残念な結果だった」という見方、2つあったと思います。私は後者ですが、アジア予選突破前のチーム状態を考えるなら、前者の見方も決して否定はできないのかなと。ディフェンス陣に負傷者が続出したり、久保(裕也)がクラブ側の都合で急に不参加になったり、確かにそういった不運はありました。でも、あのメンバーでも戦いようによっては、トーナメントに行くことは十分に可能だったと思えてならないんですよ。

千田 2位通過していたら、ブラジルと当たっていたんだよね。優勝したブラジルと真剣勝負で、なおかつ完全アウエーの状態で戦うことができたら、さぞかしいい経験にはなっただろうね。まあ、初戦のナイジェリアに5失点したのが一番の敗因だけど、あれを観ていて思い出したのがアテネ五輪(04年)の山本(昌邦)ジャパン。初戦でイタリアにやられたわけだけど、キャプテンマークを任された那須大亮がガチガチに緊張して。

――予選ではずっと鈴木啓太がキャプテンだったんですよね。その啓太を切って、那須にキャプテンを任せたら、思い切り裏目に出たという。

千田 那須が悪いんじゃなくて、当時の監督のチームマネジメントに問題があった。今回もそれに近いものを感じましたよね。国際経験のないオーバーエイジを選んで、しかも守備重視のチームなのにコンビネーションができていない。まあ、怪我人が多かったということもあるし、テグさん(手倉森監督)だけの問題ではなかったんだけど。

――篠原さんは、今回の男子サッカーはどうご覧になっていました?

篠原 もちろん観ていましたけど、五輪の男子サッカーはなぜかいつもあんまり面白くないなあと。それはたぶん男子サッカーが日本でプロスポーツとして成り立っちゃっているからだと思うんですけど。だから、ここでもうひとつ盛り上がるためにも、なでしこが出るべきだったと思いますよ。お前ら、譲れよって(笑)。

――確かに今大会は、なでしこの不在が大きかったですよね。言っても詮なきことではありますが、彼女たちがいたら男子がグループステージで終わっても、まだまだサッカーという競技は楽しめたと思います。メダルに対する執着心もなでしこのほうが上ですし。

篠原 そう、そこなんですよ! 他のいろんな競技を観ていて、フラットな視点から男子サッカーを見ていると「経験を積むため? 君たち、何しにブラジルまで来ているの?」って思いましたもん。本当に勝ちたいのなら、勝つための監督やオーバーエイジを選ぶべきだし、若い子を育てるのなら最初からそう宣言すればいい。そういうところがすごくぼんやりしていて、非常に違和感を覚えたというのが、いちスポーツファンの感想です。

――いちおう弁護しておきますと(苦笑)、選手たちには多少の温度差はあったとしても、メダルを取りたいという欲求はあったと思います。主将の遠藤航は、あの若さで子供が3人いるんですが、生まれたばかりの子に「リオ」って名付けるくらいですから。

篠原 マジですか! そこが難しいところで、もしかしたら遠藤くんは本当にメダルを取らなければ日本に帰ってこられないと思っていたかもしれないけど、サッカーは11人でやる競技なので、その気持ちが揃わないと個人競技と比べて、なかなか難しいですよね。そっかー、遠藤くんは3人の子持ちかあ。

千田 次の東京は、予選免除だよね?

――そうです。だから強化方法もいつもと違ってくるし、監督選びも含めていろいろ難しくなると思います。ただはっきりしているのは、次は「結果か経験か」ではなく「結果」一択。その後の大会に関しても、日本として五輪サッカーをどう位置づけていくのか、はっきりさせてほしいと思いますね。

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