宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】RIOを振り返り、TOKYOを想う 千田善×篠原美也子×宇都宮徹壱鼎談<1/2>

イラスト:篠原美也子

ドーピング問題、ビデオ判定、吉田沙保里

――ここで、今大会で最も印象に残ったことを、それぞれ挙げていきたいと思います。試合でも選手でもエピソードでも、何でもいいんですけど。まずは千田さんから。

千田 やっぱり、ロシアのドーピングによる陸上を中心とした不参加だよね。もしロシアが普通に参加していたら、メダルの獲得地図とかも変わってきただろうし。ロシアといえば2年前のソチ五輪の時、過去最多の開催費用を投じて成功させようとしたんだけど、その時にドーピング検査のサンプルをすり替える技術を国家レベルで開発したの。それでアンチ・ドーピング委員会のWADAが、ロシアを全面的に排除することを主張したんだけど、IOCは各種団体の判断に委ねるという、玉虫色の決定を下したんだよね。

――ただしパラリンピックに関しては、全面的にロシア排除になりそうな雲行きですよね(編集部註:その後、ロシアの全面排除が決定)。

千田 そうそう。もちろんドーピングはあってはならないことだけれど、このタイミングでロシアをいじめるというのは、もしかしたら別の思惑もあるんじゃないかと勘ぐりたくなる。2年後のワールドカップ・ロシア大会もどうなるかわからないですよ。

――スポーツ界におけるロシアの動向は、今後もウォッチする必要がありそうですね。次、私のほうからいいですか? 今回、いろんな競技を観ていて気づいたのが、さまざまな競技でビデオ判定が行われたことです。ホッケーやバレーでも、ビデオ判定を要求する「チャレンジ」制度が導入されたじゃないですか。あるいは競歩でも進路妨害とされた日本人選手(荒井広宙)の無実が晴れて銅メダルになった。つまりこのリオ五輪は、ビデオ判定導入によって、誤審がとても少ない大会になったと思っています。

篠原 個人的に、バレーボールでチャレンジが導入されたのには、ちょっと違和感を覚えましたけどね。バレーってすごく流れのある競技だから、微妙な判定で流れが途切れるのって「どうなのよ!」って思いましたけど。

千田 テニスのチャレンジは定着しているよね。

篠原 そうですね。ちなみにテニスのチャレンジって、実は相撲の物言いからヒントを得たんですって。

――へえ、それは知らなかった!

篠原 でも相撲と違うのは、テニスは審判でなく本人が申告するんですよ。コーチとかも試合に関与できないので。ところで宇都宮さんは、サッカーもビデオ判定取り入れるべきだと思います?

――私自身はビデオ判定に関しては消極派です。理由は単純で、サッカーの場合は特に判定で流れが止まってしまうのは観ていて非常にストレスがたまるから。導入するにしても、すべてのJリーグの試合で実施するのは現実的ではないですよね。篠原さんが今大会で一番印象に残ったことは?

篠原 私は吉田沙保里選手の銀メダルでびっくりしちゃったんですけど。前の日に女子のレスリングは金メダルを3つも取って、しかも伊調馨さんが4連覇を達成していただけにね。まあ吉田選手も組み合わせに恵まれていたことで「これはいけるだろう」と思っていたみたいですけど、とにかく泣きすぎ(苦笑)。

千田 自分が負けるということがイメージできなかったんだろうね。

篠原 大変酷かもしれないけれど、そこはぐっとこらえてほしかったなっていうのが正直なところですね。若い子がいっぱい金メダルを取ったんだし、世代交代が進んでいるというのはレスリング業界としても喜ばしいことなんだから、負けたときも立派であってほしかった。もちろん金メダルを取るのは素晴らしいことだけど、「グッドルーザー」であるということも、とっても大事なことなんだなって思いました。相手があってのスポーツなんだし。

<2/2>につづく(8月16日12時更新予定)

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