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【無料公開】今年のテーマは「自立・自走」 宇都宮徹壱WM、2020年元日のご挨拶

 新年、明けましておめでとうございます。

 というわけで今年のスタートを、天皇杯決勝が行われる新しい国立競技場で迎えられることとなった(この施設については、いろいろ言いたいこともあるが、それは別の機会に)。2020年最初のコラムは、この晴れがましい舞台より、今年一年の所信表明にあてることにしたい。

 今年の自分自身の大きなテーマは「自立・自走の表現活動の確立」。ここ数年の間、いずれ実現できるよう目指してきたことであったが、そうそうのんびりしていられないことを痛感したのが昨年である。

 2019年という年は、ライター業界とサッカー業界、それぞれ取り巻く状況の変化が鮮明になった一年として記憶されるだろう。前者については「読み応えのある原稿」よりも「数字が取れる原稿」がより求められるようになった。そして後者については(昨年のラグビーと比較すれば明白だが)、ニュースバリューが驚くほど低下した。

 もちろん、数字一辺倒への反動は必ずあるだろうし、今年の東京五輪の成績次第でサッカーの注目度が再び高まることも期待できよう。とはいえ、状況が好転するまで耐え忍ぶだけでは、自立・自走とは言えない。時代の変化に対応しながらも、業界の発展に多少なりとも寄与していくことが、今後の自分のミッションであるように感じている。

 以上を踏まえて、今年は日々の取材や執筆に加えて、3つのテーマを自らに課すことにしたい。すなわち(1)他領域への進出、(2)次世代への伝達、(3)ブックライターへの復帰、である。以下、それぞれ説明する。

 まず(1)について。「他領域」といっても、昨年のラグビー・ワールドカップ取材のように、サッカーから離れて他競技を取材するという意味ではない。サッカーに軸足を置くことは、これまでと同じ。ただし、サッカーだけにどっぷり浸かっていたら、書き手としても業界としても厳しいように感じている。

 サッカーのバリューアップを図るひとつの方策は、サッカー界の外側にいる人たちへのタッチポイントを増やすことだと考えている。すなわち「Football Something」というコンテンツを、今年は意識的に発信していきたい。この「Something」に触れるための仕込みは、昨年のうちに済ませておいたので、少しずつ進めていきたいと思う。

 次に(2)について。これは要するに、若い書き手に自分の経験を伝える、ということである。ご存じの方も多いと思うが、サッカー業界における書き手の高齢化は凄まじく、いわゆる「若手」でもアラフォーという状況が続いている。メディアが減少し、ベテランでもカツカツという業界の構造的な問題が、若手の参入を阻んでいるのは明らかだ。

 一方で最近は、noteなどのプラットフォームを通じて発信する、若手の兼業ライターが増えている。これはこれで、ひとつの自立・自走のあり方だと思うし、今後はこうした書き手が主流となっていくのかもしれない。だが書き手としての才能はあっても、その多くは現場での取材経験に乏しく、インタビューの基本も知らなかったりする。実にもったいない話だと思う。

 noteを使った課金メディアとして、昨年2月からスタートしたOWL Magazineは、原石のような若い書き手を次々とデビューさせて密かな注目を集めている。私もいち執筆者としてだけでなく、これまで培ってきた経験やノウハウを、求められれば惜しみなく次世代に伝えることを心がけたい。それが回り回って、業界の活性化の一助につながれば幸いである。

 最後に(3)について。私が最後に書籍を上梓したのは2018年の『J2・J3フットボール漫遊記』。さすがに2年のブランクは作りたくないものだ。今の時代、かつてほど書籍を出す意味がなくなってきている、という考え方もあるかもしれない。それでもブックライターとしての立ち位置は、時代が変わっても継続していきたい。

 ペンディングとなっているもの、あるいは最終的なゴーサインを待つものを含め、現在4本の書籍企画がスタンバイしている。このうち2本は、仕事初めのタイミングでより具体化しそう。そして少なくとも1本は、今年の夏までに書店に並ぶようにしたい。そのためにも今年は、執筆の時間により比重を置くことになりそうだ。

 そんなわけで、2020年も宇都宮徹壱WMをよろしくお願いします。

<この稿、了>

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