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【無料公開】『東欧サッカークロニクル』への道 長束恭行(サッカージャーナリスト・通訳)<1/2>

 1月25日と26日に横浜市開港記念会館で開催された、ヨコハマ・フットボール映画祭(YFFF)2020が大盛況のうちに終了した。私は1日目のみの参加であったが、『ヴァトレニクロアチアの炎』のプロデューサーであるミロ・ブラジェヴィッチ氏にインタビューしたり、『ZG80-だからアウェイはやめられない』に大笑いしたり、映画を通じてのクロアチア三昧を大いに楽しませていただいた。

 この日、実行委員長の福島成人さんと並んで大忙しだったのが、サッカージャーナリストで通訳の長束恭行さん。クロアチアから来日したブラジェヴィッチ氏一向をアテンドし、舞台挨拶や取材でのクロアチア語の通訳を務め、さらには豊富な知識をもとに作品解説までしていた。当WMでも長束さんには、YFFF2020の開催直前に登場していただいている。

 映画祭1日目の終了後、パーティーの席にJリーグの村井満チェアマンもいらしていたので、長束さんを紹介させていただいた。現地のサッカーに関していろいろやりとりがあったのちに「それにしても、よくまあマニアックな言語をマスターされましたね」。それはチェアマンのみならず、誰もが浮かぶ疑問であろう。

 業界内では「クロアチアといえば長束さん、長束さんといえばクロアチア」で通っているが、ではなぜ彼がクロアチアにどっぷりはまることになったのか、その経緯を知る人は意外と少ない。そこで今回は、WMの前身であるメルマガで2010年に行った、長束さんへのロングインタビューを無料公開とすることにした。ちょうど今月は5週あるし、YFFF2020も開催されたので、実にタイムリーな企画であると自負する。

 とはいえ、今から10年前の取材ゆえに、当然ながら情報が古びている。その一方で、5年後に日本代表監督となるヴァイッド(ヴァヒド)・ハリルホジッチ氏のことや、8年後に『東欧サッカークロニクル』に結実する現地取材の話など、いろいろ現在につながる話題も少なくない。その意味で、それなりに深みのある読後感があるはずだ。(取材日:2010年12月23日)

<目次>

*ハリルホジッチのディナモ監督就任とクロアチア人の反応

*オシムがサッカーの話をしたがるのは「寂しかったから」?

*元クイズ王の銀行員、クロアチアのサッカーと出会う

*切磋琢磨したルームメイトがオシムの通訳に就任して

*どこの国に行っても旧ユーゴ系の選手がプレーしている

*クロアチアでも「日本のサッカーは認められている」?

ハリルホジッチのディナモ監督就任とクロアチア人の反応

──今日はよろしくお願いします。長束さんのブログで、ロベルト・プロシネチキがレッドスター・ベオグラードの監督に就任したことについて触れていましたね。いくら「古巣」とはいえ、セルビアの名門クラブがクロアチア人監督を迎えることに、ある種の深い感慨を覚えずにはいられませんでした。

長束 一方でミロスラフ・ブラジェビッチがボスニア・ヘルツェゴビナ代表を率いたり、ズラトコ・クラニチャルがモンテネグロ代表監督になったり、ずい分と人の往来が活発になってきたのが最近の傾向です。

──このようにクロアチア人の指導者が隣国で指導をすることで、ユーゴスラビア解体直後の険悪な雰囲気もかなり緩和されているような気がするのですが、いかがでしょうか。

長束 それは感じますね。これまで報じられなかった隣国のサッカーが、メディアを通じて等身大で報じられるようになりました。戦争が終わって15年が経ち、違う国の指導者がやって来ることで隣国への偏見が改善されました。クラニチャルがモンテネグロへ行くことで、クロアチアのメディアが現地のサッカー事情を伝えたり、ブラジェビッチがボスニアへ行くことで、クロアチア国営放送がボスニアの試合を放映するようになったり。

──当然、逆のケースもあるわけですよね。

長束 ヴァヒド・ハリルホジッチがディナモ・ザグレブの監督に就任すると、それをボスニアのメディアが報じるようになりましたね。同様にプロシネチキのおかげで、レッドスターの現状が再び知られるようになりました。もちろん、ネット記事のコメント欄には「セルビアの話題はいらない、クロアチアの話題だけ記事にしろ」と書かれたりすることはありますが、良い方向には行っているのかなと。ユーロ(欧州選手権)についても「セルビアとクロアチアの共同開催を」という意見が出ていますしね。

──へえ、そんな話が出ているんですか!

長束 セルビア在住のポルトガル大使がそんな話をしていました。インフラが整備できるし、両国の国民感情も和らぐだろうと。ブラジェビッチやプロシネチキは賛成しています。面白い傾向ですね。

──ところで指導者としてのハリルホジッチは、現地でもかなり評価が高いみたいですね。ボスニアでの反応はどうなんでしょうか?

長束 彼はヘルツェゴビナ地方出身のムスリム人なんですが、ディナモの監督になってからは、ムスリム人がディナモを応援し始めたんです。ただし、ヘルツェゴビナにもクロアチア人がいまして、本国のクロアチア人よりも右翼的な人物が多い。彼らはディナモを応援するのですが、ハリルホジッチが来たことで「応援しない」と言ったりします(笑)。

 実はハリルホジッチ自身、あちこちで汚い言葉を掛けられるので、それに過敏に反応してしまうんですね。ボスニアのメディアに対して「クロアチアは行き過ぎている」とコメントしたりしています。

──旧ユーゴの中で、今でもクロアチアは民族主義が強い傾向があるのでしょうか?

長束 地域によりけりですね。たとえば西のイストラでは、そういうものはないですが、南のダルマチアはまだまだ強いです。スプリト、ドゥブロブニク、それからザグレブも。東のスラボニアは、強いところとそうでないところがあります。ただ概して言えるのは、戦争を知らない20代の若者たち、もしくは移民2世にプロパガンダに侵された右翼が多いということですね。

──なるほど。むしろ若い世代が、右翼思想に毒されていると?

長束 そういうところはあります。ただ、僕が「セルビアに行った」という話をすると、興味深く訊いて来ますよ。

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