宇都宮徹壱ウェブマガジン

トリサポのバンカーと考える「サガン鳥栖の生きる道」 なぜ優秀で堅実な経営者は「暴走」してしまったのか?

 J1のサガン鳥栖が揺れている。大口スポンサーだったCygamesDHCが相次いで撤退。その赤字額は20億円と報じられ、運営会社である株式会社サガン・ドリームスの竹原稔社長もこれを認めた。ウェブ上で行われたサポーターミーティングで、竹原社長は「厳しい数字が並んでいるのは事実」としながらも「クラブ消滅はない」ことを強調。サポーターとしては、その言葉に一縷の望みを託したいところだろう。

 とはいえ竹原社長の言葉には、どれだけの説得力があるのか、私には何とも判断がつかない。ここはひとつ、すでに公開されている数字を読み解くことで、経営危機を脱する最適解を見出だせないだろうか。そこで思い当たったのが、某地銀で支店長を務めているサッカー仲間の古武一朗さん(仮名)。バンカーとしての実績はもちろん、大分トリニータの長年のファンとしての知見も、本件に関しては有効と考えたからだ。

 ご存じのとおり、大分もかつて12億円もの債務超過に苦しんだ時代があった。今回の鳥栖のケースを、大分の事例と比較することで、見えてくるものがあるのではないか。加えて鳥栖の経営危機は、昨今のコロナ禍の影響を受けている他の地方クラブにとっても、決して他人事とは思えないはずだ。そんな思いをもってオファーしたところ、古武さんは丁寧な資料を作成した上で取材に応じてくれた。この場を借りて御礼を申し上げたい。

──今回の鳥栖の赤字20億のニュースを聞いたとき、真っ先に思い出したのが2009年の大分の経営危機でした。あの時は溝畑宏社長(当時)の放漫経営、そしてクラブを支えてきたパチンコホールのマルハン撤退が重なったことで、12億もの債務超過に陥りました。この2つの事例を比較してみて、いかがでしょうか?

古武 問題の本質は、11年前の大分とまったく同じです。大分はマルハンが撤退。鳥栖もCygamesDHCが相次いでスポンサーを降りてしまいました。どちらもその穴を埋められず、収入を上回る支出で巨額の赤字を出してまったと。起こってしまった現象については、両者はまったく変わるところはありません。

──なるほど。では、違いを挙げるならば?

古竹 やっぱり社長のバックグラウンドですよね。溝畑さんは自治省(現総務省)から大分県庁に出向してきた人で、いろいろあってJクラブの社長になりましたけれど、本来的な経営者ではなかった。でも、鳥栖の竹原さんは違います。36歳のときに金沢で、47歳のときに鳥栖で、株式会社ナチュラルライフを設立。北陸と九州にらいふ薬局を展開して、どちらも成功させています。かなり優秀な経営者といえるでしょう。

──2011年に鳥栖の経営を引き継いだあとも、フェルナンド・トーレスを獲得するまでは着実に業績を挙げていますよね。ところが、昨シーズンは20億円の赤字。

古武 上の表は、宇都宮さんからいただいた資料に、自分で集めてきた数字を組み合わせて作ったものです。鳥栖の当期純利益は2019年が「▲2,014」。つまり20億1400万円の赤字です。ただし、鳥栖はこの年に第三者割当増資という方法で、資本金を積み立てているんですね。その結果、20億円以上の出資を確保して、最終的に2200万円の資産超過となっています。つまり、債務超過は回避しているんですよ。

──クラブライセンス剥奪の要件は、3年連続赤字と債務超過。鳥栖の場合、2年連続の赤字ではあるものの、とりあえず形の上では債務超過は回避しているので、今季を黒字にすればセーフということになります。それにしても、どこから20億ものお金をかき集めてきたんでしょうか?

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