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【無料公開】蹴球本序評『新型コロナウイルスとの戦い方はサッカーが教えてくれる』岩田健太郎著

 今年2月、横浜港に停泊していたダイヤモンド・プリンセス号に乗船して、その内情をYou Tubeで告発(その後削除)したことで話題になった、神戸大学医学研究科感染症内科教授の岩田健太郎さん。ヴィッセル神戸のファンとしても知られ、最近はサッカーメディアで登場する機会も増えている。そんな岩田さんの新著が届いた。まずは、まえがきに当たる「WARMING UP」から引用することにしよう。

 新型コロナウイルス感染症は世界的な流行(パンデミック)を起こしており、世界中でこの感染症と無縁でいられる人は皆無になりました。よって、誰もがこの感染症について知りたいと思っていますし、また知る必要があります。(中略)

 ところで、サッカーはわりと感染対策と親和性が高いスポーツだと思います。もちろん、これは完全に偶然なのですが。

 例えば、「ゾーン」という概念があります。サッカーの場合は守備(ディフェンス)のときにゾーンという概念を用いますね。シンプルな言い方をすると、選手(マンマーク)ではなく、ゾーンで守る。そんな使い方をします。

 ゾーンというのは空間です。感染対策でも「空間」という概念はしばしば使います。例えば、微生物で汚染されたレッドゾーンとそうでないグリーンゾーンを分ける「ゾーニング」という概念がそうです。

 このゾーニングの概念が、ダイヤモンド・プリンセス号では「むちゃくちゃになっている」ことを告発したことで、岩田さんは一躍メディアの注目を集めることとなった。その評価については、さまざまな意見があるだろう。それでも、未知なるウイルスを理解する上で、本書は「入門書」として極めて有効と言える。サッカーに例えた解説のみならず、その語り口もまた理路整然としていて、清々しいくらいに含みや忖度は皆無だ。

 たとえば「マスクを付ければ安全」という考え方については《安心・安全と日本ではよく言いますが、実は、安心なんて必要ありません。本当に危機が迫っているのであれば不安になるべきなんです。》。「武漢でジョギングしても感染は起きない」というTwitterでの投稿が炎上した件については《実は武漢のように街中がウイルスだらけだとしても、人がいない場所で何も触らなければ感染は起きないのです。》。

 コロナの話題が、メディアを席巻して久しい。一般庶民も感染対策については、さまざまな知識が共有されるようになった。「3密」禁止やソーシャルディスタンスも、すっかり定着した感がある。その一方で本質的な危機への注意欠如や、逆に不必要な不安にかられる状況が、まだまだ少なくないのも事実。正確な情報を摂取し、脅威の度合いを理解した上で行動することが、ウィズ・コロナの時代には各人に求められる。その意味で本書は、サッカーファンならずとも手にとって損はない一冊だ。

 Jリーグ再開を指折り数えて待っているサッカーファンには、「スポーツイベント開催の是非」や「スポーツにおける感染症対策」の章は必読。また「遠藤保仁が不要不急のシュートを打たない理由」「マリノス優勝が示唆する観戦対策の王道」といった、いかにもサッカー好きな編集者による小見出しも嬉しい。なお岩田さんには、当WMにも近々ご登場いただく予定なので、楽しみにお待ちいただきたい。定価1500円+税。

【引き続き読みたい度】☆☆☆☆★

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