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【無料公開】蹴球本序評『ルカ・モドリッチ自伝 マイゲーム』ルカ・モドリッチ&ロベルト・マッテオーニ著、長束恭行訳

 待ちに待った新著が届いた。当初は5月発売予定だったが、コロナ禍によって1カ月以上も後ろ倒しになってしまった『ルカ・モドリッチ自伝 マイゲーム』。2018年のバロンドールを獲得した、クロアチア代表にしてレアル・マドリーの10番を担うルカ・モドリッチについて、今さら多くを説明するまでもないだろう。

 本書に序文を寄せているのは、サー・アレックス・ファーガソンとズヴォニミール・ボバン。前者はプレミアリーグの敵将として、後者はクロアチア代表の大先輩として、それぞれ興味深い「モドリッチ像」を提示している。今回は、ファーガソンによる序文を紹介することにしよう。

 ルカ・モドリッチは「素晴らしい才能を持った中盤のプレーヤー」と語られている。私の考えでも、シャビやアンドレス・イニエスタ、ポール・スコールズといった、ここ20年間の偉大なミッドフィールダーと匹敵するレベルに彼は位置にしている。(中略)

 2008年、彼はマンチェスター・ユナイテッドの一員になることなく、トッテナム・ホットスパーに移籍したことには驚かされた。我々のスカウトの一人が数年にわたってモドリッチ獲得を強調していたものの、当時のチームはロイ・キーン、スコールズ、マイケル・キャリックを擁していた。(中略)彼はあっという間に成長し、2011年には私の「標的」になった。

 実のところ、私はスーパースターの自伝が苦手である。理由は簡単で「自伝」と言いながらゴーストライターを使っている事が多く、それゆえ「いいこと」しか書かれていないことが少なくないからだ。本書の著者であるロベルト・マッテオーニ氏は、イタリア人のような名前だが、実はプーラ出身のクロアチア人。よほどの信頼関係があるのか、表面上のサクセスストーリーのみならず、プライベートな部分にもかなり踏み込んだ記述もある。読み進めるうちに、どんどん引き込まれていった。

 そして翻訳者は、日本におけるクロアチア・フットボールの第一人者、長束恭行さん。この人との付き合いは長いが「訳者あとがき」には、個人的にぐっときた。いわく《最後になるが、私にとって『マイゲーム』を翻訳することは、クロアチア・サッカーにとことん惚れ込み、後先考えずに現地に移り住んだ時代を振り返る絶好の機会となった。》。さらに《ファイナル進出に喜ぶクロアチア代表をテレビ画面で観ながら、私は静かにひとり泣きした。》。

 個人的な記憶を述べるなら、2006年3月1日に、スイスのバーゼルでモドリッチのクロアチア代表デビュー戦を撮影(私の40歳の誕生日だった)。その3日後にはザグレブにて、モドリッチにショートインタビューを敢行している。長束さんの通訳を介して「日本のメディアから取材を受けたのは初めてだ」と語っていたのも良い思い出だ。それらを抜きにしても、十分に読みごたえのある一冊である。定価2000円+税。

【引き続き読みたい度】☆☆☆☆☆

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