宇都宮徹壱ウェブマガジン

なぜ東京ヴェルディはヴェルディカレッジを立ち上げたのか 佐川諒(パートナー営業部シニアディレクター)<1/2>

 東京ヴェルディカレッジ(以下、ヴェルディカレッジ)をご存じだろうか?

 J2の東京ヴェルディが運営する学生向けのビジネススクールである。公式サイトから引用すると、ヴェルディカレッジは《業界・競技の壁を越え、ビジネスのノウハウ習得を目指し、『スポーツ』を『ビジネス』として考えることができる人材を育成する学生ビジネススクールです。》とある。クラブ創設50周年の昨年からスタート。2期生を迎えた今年はコロナ禍の影響もあり、リモートでの講義が続いている。

 私がこのヴェルディカレッジに興味を抱いたのは、3つの理由があった。まず、リモートで学生が納得できる講義が可能なのか、ということ(私自身も今年は大学の講義をリモートで行っている)。次に、男女問わず選手育成で定評があるヴェルディが、なぜビジネススクールを立ち上げたのか、ということ。そしてヴェルディカレッジを立ち上げたのが、東京ヴェルディ株式会社でパートナー営業部シニアディレクターという重責を担う、佐川諒さんだったことである。

 佐川さんといえば、Jクラブのスポンサーセールス界隈では、それなりに名の知られた人物だ。その斬新な発想と目覚ましい実績については、すでにいくつかインタビュー記事があるので、興味がある方はぜひ当たってみてほしい。当WMでは、そちらはあえてスルーして、ヴェルディカレッジに絞ってお話をうかがうことにした。そこで見えてきたのは、東京ヴェルディがヴェルディカレッジの向こう側に見据える「クラブの将来像」である。

 今回のインタビューを終えた今、私はこのクラブに対する認識を、大きく改める必要があることを悟った。ヴェルディが最後にJ1を戦ったのは2008年。今から12年前の話である。ピッチ上での結果のみを見れば「かつての強豪」という認識が一般的なのかもしれない。しかしながら「クラブ全体のポテンシャル」で見ると、まったく違ったヴェルディ像が立ち上ってくる。今回の佐川さんへのインタビューから、それを感じ取っていただければ幸いである。(取材日:2020年6月30日@東京)

<1/2>目次

*ヴェルディカレッジが「オンラインの方がいい」理由

*人材育成のナレッジを全スポーツ競技に取り入れていく

*学生の選考基準は「ウィル」「野心」「ハングリー」

 

ヴェルディカレッジが「オンラインの方がいい」理由

──ヴェルディカレッジも2期目ですが、今年はコロナの影響でオンラインの講義となっています。私も参加させていただきましたが、対面での講義と比べて、やりにくさを感じることはありますか?

佐川 むしろ「オンラインの方がいい」というのが、個人的な印象です。というのも、1期生のときよりもコミュニケーションの量も多いし、質的にも深いものになっています。おそらく「わからない時は質問してね」ということを、リアルな講義のとき以上に学生に言っているからだと思います。こちらもコミュニケーションのやり方を工夫して、より理解度を高めていくための試行錯誤をしてきました。そういうこともあって、むしろオンラインでの講義のほうが、学生の理解度は高まっているように感じています。

──オンラインになったことで、2期生の間で戸惑いは見られなかったのでしょうか?

佐川 最初は戸惑っていたんですよ。講義はZoomで、コミュニケーションはSlackですから「何これ?」状態だったと思うんです。でも僕らが知らない間に、学生が自主的にリモートで情報交換をしていたようで、今はまったく問題はない状態です。

──なるほど。2期生と1期生とでは、学生の数は違うんでしょうか。

佐川 2期生は22人で、1期生は33人でした。人数を絞ったのは、去年の反省点として、ひとりひとりの成長感を見きれなかったというのがあったからです。ちなみに1期生を募集した時は、70人以上のエントリーがあったんですが、2期生は50人弱くらい。去年は「何となくサッカーの仕事がしたい」という学生が多かったんですが、今年は「将来こんなビジネスをやりたい」とか「自分はこういう部分が足りていないから、カレッジで力をつけたい」とか、目標が明確な学生が多いですね。

──ヴェルディカレッジの内容について深堀りする前に、ここで御社のリモートワークについてお聞きしたいと思います。佐川さんはnoteの中で「ヴェルディでもリモートワークを導入したことで、いろいろ思うところがあった」とお書きになっていました。この新しい働き方が、スポーツビジネスに与える影響をどうお感じになっていますか?

佐川 自分自身がトライしてみて、ぜんぜん苦にならなかったどころか、むしろ楽しく仕事ができたというのが率直な感想ですね。実はこの4月に新しいメンバーが6人、入社してきたんですよ。全員20代で新卒もいるんですが、入社2日目からリモートワークになったんですね。最初は苦労するかなと思ったんですが、彼らもストレスなく普通に稼働しているし、僕らも問題なくマネジメントできました。ですから、ものすごくスムーズにリモートワークに移行できたという手応えは、感じています。

──対外的な営業についてはどうでしょう?

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