宇都宮徹壱ウェブマガジン

もしあなたのクラブの選手が「政治的発言」をしたならば 大坂なおみ選手をめぐる議論が決して他人事ではない理由

 本題に入る前に、まずは私の友人が企画しているウェビナーについて告知したい。9月20日の19時から24時間にわたって開催される『A-GOAL 24時間チャリティーライブ~スポーツでアフリカと繋がろう~』である。

 A-GOALプロジェクトは、新型コロナウイルス感染拡大によって、生活に困窮したアフリカの人々を「スポーツの力」でサポートするために、今年5月に立ち上がった。これまでに、ケニア、ナイジェリア、マラウイの3カ国で、地元の地域スポーツクラブをハブとして、およそ1000世帯以上に食料や衛生用品を届けてきたという。今回のウェビナーでは「アフリカをもっと身近に!」をキーワードに、日本とアフリカをつなぐさまざまなゲストが大集合。24時間のウェビナーで、現地の1000家庭に食料を届けることを目指すという。

 われわれサッカーファンにとって「アフリカ」といえば、やはりJリーグで活躍するアフリカ出身選手が思い浮かぶ。今回のウェビナーでも、福島ユナイテッドFCのイスマイラ選手、YSCC横浜のオニエ・オゴチュクウ選手(いずれもナイジェリア出身)が参加予定。そしてなんと、現在J1の得点ランキングトップを走る、柏レイソルのオルンガ選手(ケニア出身)の参加も正式に決まった。身近なアフリカ出身のJリーガーをきっかけに、コロナ禍のアフリカの現状にアクセスしていただければ幸いである。

 さて、本題。先週、テニスの全米オープンで、大坂なおみ選手が2年ぶりの優勝を果たした。この大会で彼女は、黒人に対する人種差別や警察の暴力によって亡くなった、犠牲者の名前が書かれた7枚のマスクをあらかじめ準備。初戦から決勝までの7試合、すべて異なるマスクを着用した姿は全世界に報じられた。そして、ビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)との死闘を制し、優勝した直後のフラッシュインタビュー。マスクの意図について問われた彼女は「あなたはどう思いましたか? 私はみんなに考えてほしかった」と語っている。

 大坂選手の人種差別反対、さらにはBLM(ブラック・ライブズ・マター)支持を表明する一連の行動について、もちろん賛同者ばかりでないことは承知していた。「スポーツに政治を持ち込むな!」という主張はまだ理解できるものの、SNS上では「スポーツ選手はスポーツだけやっていればいい」とか「スポンサーの迷惑を考えろ!」とか、さらには「テロリスト支持のプロパガンダ」なんていうのもあった。しかもざっと見たところ、むしろ彼女が全米オープンで優勝して以降のほうが、誹謗中傷がエスカレートしているように感じられる。

 この件で私が不思議に思ったのが、大坂選手に辛辣な書き込みをしている人たちの多くが、普段はテニスや黒人差別に特段の関心を払っていないように感じられることだ。そしてこの人たちは、大坂選手が「日本国籍を取得しているくせに」「スポンサーのおかげでテニスを続けているくせに」さらには「女(性アスリート)のくせに」政治的な言動をしていることが許せないようだ。この見立てが正しいのなら、この国におけるアスリートが置かれた状況というものに、五輪開催国の国民である私たちは思いをめぐらせる必要がある。

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