宇都宮徹壱ウェブマガジン

制度設計から考える来年のWEリーグと今年のJリーグ 前Bリーグチェアマン、大河正明からの提言<1/2>

 今週は久々にビッグなゲスト。前Bリーグチェアマンで、現在はびわこ成蹊スポーツ大学副学長、そして大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所所長を務められている、大河正明さんにご登場いただく。今回の取材のきっかけとなったのは、大河さんの10月15日のツイートである。

 来年開幕するWEリーグについて《思うこと・感じることはいろいろあって書き切れない。》ということなら、とことん語っていただこうではありませんか! ちょうど天皇杯取材で関西に行く予定だったので、大河さんにDMを送ったところ、すぐに話がまとまった。

 大河さんは1958年生まれの京都市出身。京都大学卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。1995年から2年間、Jリーグに出向し、2010年に銀行員の身分を捨ててJリーグに入った。管理統括本部長を経て、Jリーグ理事と常務理事を歴任する間に、Jリーグクラブライセンス制度の導入やJ3リーグ創設に尽力。15年から20年までは、Bリーグチェアマンに就任し、リーグの制度設計に深く関わっている。

 私にとっての大河さんといえば、やはり「制度設計のプロフェッショナル」というイメージが強い。村井満チェアマンの矢継ぎ早の改革も、就任前にクラブライセンスやJ3の整備が不可欠だったというのが私の見立てであり、その陣頭指揮に当たっていたのが大河さんだった。

 今回のインタビューでは「制度設計」という視点から、来年に開幕するWEリーグに思うこと、そしてJリーグのコロナ対策についても語っていただいた。極めて示唆に富む内容となっているので、最後までお読みいただければ幸いである。(取材日:2020年10月30日@京都)

<1/2>目次

Bリーグチェアマンから教育者に転身した理由

*なぜWEリーグのシーズンは「秋春制」なのか?

*「女性の取締役・理事を4割に」の意外な根拠

Bリーグチェアマンから教育者に転身した理由

──あらためまして5年にわたるBリーグチェアマンのお仕事、お疲れさまでした。本題に入る前に、このタイミングで退任を決断された理由から教えてください。

大河 もともと「長期政権はよくない」と思っていました。ちょうど2020年が、新しいスポンサーや放送権の契約のタイミングで、その目処も立った今年の2月中旬から(退任することを)決めていました。実は、2019年7月に、2026年からの「新Bリーグ構想」というものを打ち出していたのですが、その時には間違いなく僕はいないわけで、だったら早めにバトンタッチしようと。結局、最後はコロナによって、ああいう終わり方になりましたが。

──後継者として島田(慎二)さんをイメージされたのは、いつからでしょうか?

大河 有力な候補者のひとりであるとは思っていました。ただ、僕自身は(次期チェアマンの)選考には一切かかわらないようにしていたのです。僕が後任を指名してしまうと、みんなが前チェアマンの顔を見てしまう。それは良くないと思ったので、最初から第三者機関に選考を委ねることにしました。

──つまりJリーグチェアマンの選考と同じ方法ということですね(参照)

大河 そういうことですね。それでJリーグとBリーグで法務委員長をやっている、野宮(拓)弁護士に座長をお願いしたのですが、当初、候補者のロングリストには上場企業の経営に携わっていた人が多く含まれていたようです。ただ、どの企業もコロナ対策が大変で、結局「このタイミングでは厳しいです」ということになってしまいました。だったら、Bリーグのことをよくわかっている島田さんに、という判断になったようですね。このあたりの話は、会見でも明らかにしていることなのですが。

──かくしてBリーグでのミッションを無事終えたわけですが、次のビジョンというものを、ご自身ではどう捉えていたのでしょうか?

大河 もともとは銀行勤めだったわけですが、ここまで10年以上関わってきたスポーツというものに、もう少し寄り添っていきたいという思いはありましたね。そこで考えたことが3つあって、まず自分のやりかけの仕事として、やはりアリーナやスタジアムが変わらないと、日本のプロスポーツが劇的に良くなることはない。それが、1つ目。

 2つ目は、SHC(スポーツ・ヒューマン・キャピタル)の立ち上げに関わってきた立場として、若いビジネスマンや大学生に自分の経験を伝えていきたい。そして3つ目に、新しいチームの立ち上げに関わりたいという思いがありました。たまたま大阪成蹊大学で、今年からスポーツイノベーション研究所というのが立ち上がって、そこの所長に就任することになりました。そうしたら「びわこ成蹊スポーツ大学の副学長も頼む」と(笑)。

──同じ成蹊の系列とはいえ、引っ張りだこで大変ですね。

大河 副学長のほうは、学校経営とかマネジメントの世界なので、わりと時間的な拘束を受けるかなって思ったのですが、それでも請われているうちが華なのかなと(苦笑)。それ以外だと、JOCの理事と東京の経済同友会の会員でもありますし、JFAのアドバイザリーボードメンバーもやっていますので、京都と東京を行ったり来たりという感じです。

──もともと大河さんは、ご出身が京都ですからね。大阪成蹊大学では、学生に直接講義されたりしているのでしょうか?

大河 僕自身が講義を受け持つというよりも、ゲストとして1コマを担当するような感じですね。あとはビジネスマン向けに「スポーツイノベーションアカデミー」という、SHCの短期間バージョンを開催しようと思っています。それで、自分で資料を作ったりしているのですけど、意外と大変だなと思いながらやっていますね(笑)。

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