宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】WMコラムで振り返るこの一年 コロナ禍一色の2020年で見出した光明

 2020年も残すところ、あと2日。今年の宇都宮徹壱WMは、このコラムが年内最後のコンテンツとなる。本題に入る前に、このほどnoteマガジンにてリリースした『100回目の天皇杯漫遊記』の告知をさせていただく。あえて課金コンテンツにする理由はこちらにも書いたが、普段お世話になっているWM会員の皆さんには、この場を借りて私の思いをあらためて訴えることにしたい。

 今年で第100回の記念大会となる天皇杯は、コロナ禍の影響によって大きくレギュレーションを変更した。参加チームは88チームから52チームに縮小され、1回戦から5回戦はアマチュアチームのみで実施。JクラブはJ3J2の優勝クラブが準々決勝から、J1の1位と2位クラブが準決勝から出場することとなった。1世紀に及ぶ天皇杯の歴史の中で、この特異な大会を記録に残さなければ──。そんな使命感をもって、今大会は1回戦から決勝まで、現地取材することを思い立った。

 9月16日から始まった今大会も、ついに元日・国立での決勝を残すのみ。その間、1回戦から準決勝までの8試合、北は青森から南は大分まで会場に足を運んだ。もちろん現場での取材は楽しかったが、一方で葛藤と自問自答の連続となったのも事実である。アマチュア同士の対戦は企画として通りにくく、結果として経費はすべて持ち出し。書き上げたコラムも、それほど読者の目に留まることなく、またたく間に流れていってしまう。自分のやっていることが、無意味に感じられてしまうことも、一度や二度ではなかった。

 そんな時、noteの中の人から「noteのマガジンにまとめて販売するのはどうですか?」と勧められた。noteならば簡単にかつタイムリーにリリースすることができるし、当企画に価値を感じる人たちに購入してもらえるかもしれない。それなりの売り上げが立てば、これまでかかった取材経費をある程度は回収できるかもしれない。そして何より、既存メディアでは通りにくい企画でも「商品」となり得ることを証明できるかもしれない──。そんな切実な思いから、noteでの有料マガジンに挑戦することと相成った。

 この『100回目の天皇杯漫遊記』は、すでに発表した1回戦から準決勝までの8試合のコラムに、決勝と大会総括の書き下ろしを2本、さらに取材現場での「オフ・ザ・ピッチでの裏話」を加えた構成となっている。それぞれのコラムには単価が設定されているが、マガジンで購入すれば1000円。通して読んでいただければ、コロナ禍で行われた天皇杯の全体感を俯瞰しながら、ベタ記事扱いだった5回戦までの熱戦を追体験できる仕組みになっている。年末年始の読み物として、ご購入いただければ幸いである。

 さて、本題である。今回はこの1年、当WMで掲載したコラムの中から、特に反響があったものや思い出深いものを月ごとにチョイス。1月から12月まで並べて、2020年を振り返ることにしたい。今年もWMコラムでは、国内外のサッカーに関するホットな話題を適時取り上げてきた。コロナ禍で明け暮れた2020年。そんな中でも、わずかな光明を見出せるとしたら、それは何か? 今回のコラムは無料公開なので、これを機に会員以外の皆さんにもWMにご興味を持っていただければ幸いである。

【1月】

なぜYASSカレーは野津田から去ることになったのか? 10年連続出店が途切れることになった知られざる理由

「町田のロックなカレー屋」YASSカレー。全国のスタグルファンの間でも知られる存在だが、1月20日の公式アカウントが《YASSカレーは2020シーズンFC町田ゼルビアホームゲームに出店しないことになりました。》とツイート。その真相を確かめるべく、YASSカレー社長の安田結さんと奥様のひろ子さんにインタビューさせていただいた。個人メディアのフットワークの軽さから生まれた本稿は、多くの新規会員獲得につながった。

【2月】

村井満Jリーグチェアマンの再任について考える JFA会長選挙とはまったく異なる厳格なプロセス

 1月30日、村井満チェアマン再任内定が発表されたことを受けてのコラム。内容は、意外と知られていない、チェアマンの選出方法についてである。実のところ私は、村井さんが今年限りで退任して、次期チェアマンは木村正明さんが就任すると予想していた。とはいえ、その後の未曾有の状況を考えれば、私の予想が外れて本当によかったと思う。

【3月】

NPBとJリーグが並び立つ歴史的意義を考える 新型コロナウイルス対策連絡会議設立に寄せて

 新型コロナの感染拡大を受けて、村井チェアマンがJリーグ公式戦の開催延期を発表したのは2月25日のこと。その後の矢継ぎ早の対策については周知のとおりだが、それから6日後の3月3日にNPBと合同で「新型コロナウイルス対策連絡会議」を立ち上げている。本稿では、わが国における野球とサッカーの歴史を紐解きながら、両者が団結してコロナに立ち向かっていく意義について考察した。

【4月】

世界が変わり果てる前に私たちが考えるべきこと 新型コロナ感染拡大と第一次世界大戦との類似性

 4月3日、Jリーグは公式戦の再開日を「白紙」と発表。7日には政府が緊急事態宣言を発令した。最も先行きの見通しが立たず、誰もが不安を募らせていた頃に書かれたコラムである。本稿で私は、このコロナ禍を第一次世界大戦と比較。《おそらくコロナ終息後の世界も、今とはすっかり変わり果てたものになっていることだろう。》としている。

【5月】

トリサポのバンカーと考える「サガン鳥栖の生きる道」 なぜ優秀で堅実な経営者は「暴走」してしまったのか?

 コロナ禍によるJクラブの経営悪化が、最初に表出したのがJ1のサガン鳥栖であった。CygamesDHCといった大口スポンサーが相次いで撤退。そこから立て直そうと思ったところでコロナ禍に見舞われ、その赤字額は20億円と報じられた。本稿では、某地銀で支店長を務めているサッカー仲間の古武一朗さん(仮名)にリモートでインタビュー。公開されている経営実績と損益計算書の「読み解き方」について語っていただいた。

【6月】

WEリーグが「新しい日本のキックオフ」となるために 日本の女子サッカーリーグをプロ化する真の理由とは?

 6月3日、JFAは日本初の女子プロサッカーリーグが21年秋に開幕し、その名称が『WEリーグ』に決定したことを発表した。とはいえ、なぜこのタイミングなのか? 興行として成立するのか? いくつも「?」マークが浮かぶ中、身近で最もポジティブな反応を示していた石井和裕さんにお話を伺ったのが本稿である。なお、この時の取材がWE Love 女子サッカーマガジン』誕生の契機となったのも感慨深い。

【7月】

【無料公開】あなたが「大人のサッカーファン」であるならば 名古屋グランパスの件について個人的に思うこと

 6月27日に再開されたJリーグ。しかしJ1第7節が予定されていた7月26日、サンフレッチェ広島対名古屋グランパスの試合が、再開後初の中止となった。名古屋の若手選手が相次いで感染し、広島に遠征していたメンバーの濃厚接触の確認に時間がかかるため、というのが中止の理由であった。ストイックな生活を強いられる選手と、観戦プロトコルを遵守できない一部サポータとのコントラスト。やるせない怒りを覚えながら書いた本稿は、予想外の反響を呼び、その後は無料公開となった。

【8月】

キャリアの「引き際」を見極める大切さと難しさ 内田篤人の現役引退がわれわれに問いかけるもの

 中村憲剛、佐藤寿人、そして曽ヶ端準。今年も、一時代を築いたベテラン選手の引退が相次いだが、その先鞭をつけたのが、鹿島アントラーズの内田篤人であった。32歳という年齢もさることながら、シーズン途中の8月での電撃引退には大いに驚かされたものだ。その潔い引き際について、思い切り自分自身のキャリアに寄せて書いたのが本稿である。

【9月】

ブックライターであり続けて、本当によかった! 久々の新著で感じた「ネットメディアとの違い」

 今年の仕事の中で一番の成果は、3年ぶりの新著となる『フットボール風土記』を上梓したこと。その一方で、数字やスピードばかりが求められるネットメディアに対して、自分自身の立ち位置を決めきれない一年でもあった。書き手としての葛藤を整理するべく、書かれたのが本稿。この件については、来年こそは決着を付けたいところである。

【10月】

代表戦の「ユトレヒト方式」は定着するのか 至れり尽くせりのリモート取材で考えたこと

 それまで当たり前のように取材していた日本代表が、かつてないほど遠い存在に感じられるようになったのも、今年の大きな出来事であった。10月と11月にヨーロッパ遠征が行われたが、メディア関係者をシャットアウトした完全リモート対応。至れり尽くせりの情報提供には感動を覚えつつも、これが契機となって代表の取材現場が大きく変わることを自覚せざるを得なかった。延期になったワールドカップ予選は、果たしてどうなるのだろうか。

【11月】

あらためて新潟の社長交代について考えてみる 若く有望な前社長の判断を狂わせたものは何か

 10月にはJクラブでの不祥事が相次ぎ、11月にはアルビレックス新潟の是永大輔社長の辞任が発表された。是永前社長とは個人的にも付き合いが長く、しかも不祥事が発覚する直前にインタビュー取材をしていただけに、その意味でも衝撃的な出来事であった。本稿は《今回の失敗と挫折を糧に、是永氏がさらに大きく成長し、再び日本サッカー界で捲土重来する日を待ち続けることにしたい。》と結んでいるが、その気持ちは今も変わりはない。

【12月】

ヴェルディ君の「勇退」になぜモヤってしまうのか? マスコットに「数字」や「結果」を求めることへの疑義

 2010年の経営危機から10年にわたり、経営トップとして粉骨砕身の働きをしていた羽生英之代表取締役社長が辞任した東京ヴェルディ。クラブの運営会社は今後、ゼビオホールディングスの連結子会社となることが発表された。いろいろきな臭い話も聞こえてくるが、私にとってはヴェルディ君「勇退」がいまだに納得できずにいる。偉大な功労者たちが相次いで去っていった名門は、今後どうなっていくのだろうか。

 ということで、2020年を駆け足で振り返ってみた。今年の一番の光明は、やはりJリーグの卓越した危機管理、そして村井チェアマンの強烈なリーダーシップに尽きるだろう。昨今の日本政府の後手後手ぶりを見るにつけ、Jリーグがひたすら眩しく輝いて見えてしまうのは、私に限った話ではないと思う。わが国にも、世界に誇れるガバナンスを持った組織があり、そしてリーダーがいる。そのことを気付かせてくれたJリーグに、感謝の拍手を贈りながら一年の締めくくりとしたい。

 皆さん、どうぞよいお年を。

<この稿、了>

【付記】2021年最初のコンテンツは『ディス・イズ・ザ・デイ』の作者、津村記久子さんと宇都宮徹壱との新春特別対談! 更新は1月1日の午前0時なので、新年が明けたらすぐにチェックしていただきたい。

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