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J3チャンピオンに挑んだ県1部クラブの野心 小谷野拓夢(福山シティFC監督)<2/2>

天皇杯「ベスト6」を果たした青年監督の素顔 小谷野拓夢(福山シティFC監督)<1/2>

<2/2>目次

*「正直、勝ってもおかしくない内容だと思っていた」

*なぜ鹿島学園時代の17歳で指導者を志したのか?

*年上の選手を指導するために普段心がけていること

「正直、勝ってもおかしくない内容だと思っていた」

──ここから、ブラウブリッツ秋田との準々決勝を振り返っていただきたいと思います。まず、15分での失点シーン。相手の圧力に、何とか対抗しようとしていたところで決められてしまいました。あの失点パターンは想定内でしたか?

小谷野 ある程度は想定内でした。秋田のフィジカルのレベルは、おそらくJ1クラブにも匹敵するくらいだと思っています。選手たちにとっても、今まで経験したことのない圧力だったので、入りの15分で相手のスピードやプレスに慣れていくことを、ひとつの目標にしていました。結果として、あの時間帯で失点してしまったことで、ゲームプランがひとつ狂ってしまいましたね。

──失点後は徐々に持ち直して、後方からしっかりビルドアップしながら攻撃を仕掛けていくようになります。そして41分には、吉井佑将選手による同点ゴールが決まりました。しかも、いかにも福山シティFCらしいゴールでしたよね。

小谷野 選手にも試合前に伝えたんですが、自分たちがボールを保持しながら崩してゴールを奪うことは、リーグ最少失点の秋田に対しても十分に可能だと思っていました。実際、あのシーンでは20本以上のパスがつながって、相手を崩しきってからゴールを決めているんですよね。

──あれは現地で見ていて痺れました(笑)! ところが5分後の前半アディショナルタイムに、相手にCKのチャンスを与えてしまって失点。秋田の得点パターンの半分が、セットプレーによるものだったのは十分に認識していたと思います。それでも防ぎきれなかった理由は、何だと思います?

小谷野 まず、失点した直後だったにもかかわらず、あのタイミングで質の高いキックを入れて、それを決めきってしまう秋田の精神力ですね。それがあるから、J3で無敗優勝ができたんだと思いました。それに対して、自分たちのリアクションが相手と比べて、どうしても遅れていたんですよね。プレーでも、判断でも。そういったところを突かれて、あの失点につながってしまったんだと思います。

──前半は12で終了。後半で挽回するために、どんなプランを考えていたのでしょうか?

小谷野 選手には「前半で2点差をつけられたら無理だけど、1点差であれば十分に挽回できる」ということは伝えてあったんです。もちろん、ハーフタイム直前の失点は痛かったですが、選手たちの表情に絶望感はありませんでした。その意味では、ゲームプランどおり。秋田はリードすると引きこもる場面が増えるので、後半は自分たちがボールを保持して相手を崩すシーンが増えるだろうと予想しました。そこで、もし引き分けに持ち込めたら、一気に会場のムードが変わると思ったんです。

──私もその展開を期待していました。実際、後半にも惜しいシュートが2本くらいありましたしね。

小谷野 映像を振り返ってみても、後半に点を決めるチャンスが2回あったんです。しかも、どちらも相手を完璧に崩し切って、ペナルティーエリアへボールを送り込んでいるんですよね。そこまではプランどおりでした。ただしフィニッシュで枠の外だったり、相手が一瞬早くブロックに入ったりして、得点には結びつかなかったんです。僕としては、前半終了間際のCKでの失点よりも、あの2つのシュートを決めきれなかったことのほうが敗因だと思っています。

──そして終了間際には、FKを直接決められてダメ押しの3点目。あれは防ぎようのない失点でしたね。

小谷野 そうですよね。あんなに良いキッカーがいる相手に対して、あの距離で、あの場所でファウルしてしまったらね。僕も防ぎようがない失点だったと思います。

──試合が終わった瞬間は、どんな気持ちでしたか?

小谷野 悔しかったです。正直、勝ってもおかしくない内容だと思っていたので。試合後も「何が足りないのだろう」って、ずっと考えていましたね。

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