宇都宮徹壱ウェブマガジン

東日本大震災でのJサポ団結はなぜ風化したのか? 「Football Saves Japan」10年後の述懐<1/2>

 2011年3月11日14時46分──。あの時、私は出版社との打ち合わせのために都営新宿線に乗車していた。曙橋を出るタイミングで強い揺れが起こり、そのまま列車は動かなくなってしまう。出版社の打ち合わせは延期となり、今度は新宿まで歩いて映画『クラシコ』の配給会社との別の打ち合わせ。それが終わって新宿駅から帰ろうとした時、すべての列車が止まっていることを知って愕然とする。そして新宿駅のシャッターが早々に閉まった時、ようやく私は容易ならざる事態が起こっていることを思い知らされた。

 早いもので、東日本大震災の発生から10年になる。その前年に個人メディアを始めたこともあり、毎年「3.11」が巡ってくるたびに、あの日を忘れないためのコンテンツを発信し続けてきた。宇都宮徹壱WMとなって以降は、以下のとおり。

【無料動画】あの日から9年。ちょんまげ隊長ツンさんと考えるボランティアとサポーターの親和性

ツンさんが唱える「ちょんまげイズム」とは何か? 震災から8年、持続可能な支援を考える<1/2>

「3.11」に全国リーグの舞台に立つことの意味 近江弘一(コバルトーレ女川代表)インタビュー<1/2>

復興支援映画で体感する「サッカーのチカラ」 映画『MARCH』制作委員会インタビュー

 やはり、ちょんまげ隊長ツンさんの登場が多い。ちなみに、私が初めてツンさんにインタビューしたのが、徹マガ時代の2011年。おそらくツンさんへの単独インタビューの中でも、最も早い部類と思われる。

通巻70号 日本の応援スタイルを変えたい! ちょんまげ隊長ツン氏インタビュー(上)

 震災から10年の今年は、あえて違った角度から「サッカーと復興支援」についてアプローチすることにしたい。震災直後、サポーター有志によって始まった「Football Saves Japan(以下、FSJ)」というプロジェクトをご存じだろうか。全国のJクラブサポーターに呼びかけて、支援物資をJFAハウスの日本サッカーミュージアムに集め、なおかつ自分たちで被災地に届ける──。その実行力もさることながら、クラブや地域を超えたサポーターの大同団結、そして立ち上げから実行までのスピードも当時としては画期的だった。

 ところがFSJの活動は、その後、急速に風化して忘れ去られてしまう。考えられる理由は、大きく2つ。まず彼らの活動が、ちょんまげ隊のような継続的なものではなかったこと。そしてFSJの活動記録が、ネット上にほとんど残っていないこと。そんなわけで、今の若いサッカーファンには、FSJの存在がほとんど知られていないのが実情だ。そこで今回、10年前のFSJの活動を掘り起こすべく、プロジェクトの発案者で中心メンバーでもあった、清義明さんにインタビューをさせていただいた。

 当WMに清さんが登場するのは、今回が2回目。前回のインタビューは2016年で、ちょうど初の著書となる『サッカーと愛国』(ミズノスポーツライター賞を受賞)を上梓したタイミングであった(参照)。横浜F・マリノスのゴール裏での「武闘派」も、最近はバックスタンドでのサッカー観戦を楽しみながら、ライターとして国際政治からサッカー文化まで幅広く執筆活動を続けている。そんな清さんに、自身が経営するお店『ギミーギミーギミー』にて、当時のことを振り返っていただいた。(取材日:2021年2月17日@横浜)

<1/2>目次

*「初めてサッカーの本当の面白さに気づいた(笑)」

*自分から支援物資を運んできてくれた中村俊輔

*美学ゆえ(?)ずっと裏方に徹していた植田朝日

「初めてサッカーの本当の面白さに気づいた(笑)」

──まずは、近況から伺いたいと思います。前回、お話を伺ったのが2016年でした。あれから4~5年経っていますが、何か変わりましたか?

 あの時から、ほとんど何も変わってないですね。ライターの仕事が多少増えてきたので、もしかしたら皆さんの目に触れる機会が多くなったかもしれないです。

──朝日の『論座』をはじめ、硬派なところで書いていらっしゃいますよね。

 そうですね。朝日、産経、扶桑社によく寄稿しています。みんなWeb記事なんですけど。

──お仕事についてはライター、そしてこちらのお店と、どれくらいの比率ですか?

 皆さん、意外に思うかもしれないけど、会社としてはWeb関連のビジネスがメインです。さらに言うと、店には僕、いないんですよ。時々、僕に会いに来てくれる方がいらっしゃるんですけど、ぜんぜんいないので(笑)。この機会にみなさんにお伝えいたします。

──清さんの場合、ライターといってもサッカーではなく、国際政治のほうがメインになっていますけれど、Webだと原稿料はそんなに変わらないのでは?

 確かに、儲からないです。サッカーもそうですが、今はどのジャンルでも紙(媒体)で書くチャンスって、ほとんどないじゃないですか。ですから、自分でメディアを持つ方向にしていかないと、よっぽどの大御所でないかぎり生活が続かない。その意味で、10年前から個人メディアを始めていた宇都宮さんは賢いですよ。メルマガにしてもWebマガジンにしても「いつかは滅びる」とか言われながら、ちゃんと生き残っていますからね。

──会員の皆さんのおかげで、なんとか続けられていますね。一方でお店のほうですが、やはり緊急事態宣言の影響はかなり受けている?

 もちろん受けますよ。今年は1月から平日を休みにして、土日のみ営業しています。その土日も、店を開けているのは6時間くらいだし、はっきり言って赤字なんですよ。

──そうですか。話は変わりますが、マリノスとの関わりは最近どのような感じですか?

 ファンとして試合を見させていただいていますけど、最近はもっぱらバクスタかメインですね。ちょうど前回のインタビューくらいの頃にゴール裏は卒業したので、そっちのほうにはまったく顔を出さなくなりました。しばらくは年に3~4回くらいしか、スタジアムで試合を見ない時期もありました。

──ゴール裏から離れたことで、サッカーに対する見方も変化したのでは?

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