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【無料公開】ARによる新世代スポーツ「HADO」が目指す世界観 福田浩士(株式会社meleap)✕岡田武史(株式会社今治.夢スポーツ)

■「いずれはサッカーを超えるスポーツに」

──FC今治が所属するJ3リーグは、3月14日に開幕します。こういう時代ですけれど、コロナ禍でのスポーツ観戦のあり方について、岡田さんはどうなっていくとお考えでしょうか?

岡田 急激ではないにせよ、将来的にスポーツ観戦のあり方というものは、大きく変わってくると思います。たとえば去年、ある球団がVRで野球中継を放送したんですね。VR用のゴーグルが必要なんだけど、それをかけると自宅に居ながらにして打者のスイングを360度さまざまな角度から見ることができるんですよ。そうなると「わざわざ渋滞の中を車で球場に行かなくてもいいじゃん」と思う人が必ず出てくる。もちろん「野球場で観たい」という人もいて、スポーツ観戦のあり方が多様化していくと思うんですよね。

福田 そうなると、スポーツ観戦のマネタイズも変わってきますよね?

岡田 そう。どうしてもスタジアムで観たい人には、いろいろなサービスが受けられるボックスシートが高額で売られるかもしれない。VRで楽しむ人は、安い課金で見られるんだけど、それを世界中の何十万人もの人たちが視聴できる。そういうビジネスになっていくかもしれない。今治で新しいスタジアムを作るのを1年遅らせたのは、実はそういう可能性を考えたからです。もはやスタジアムをいっぱいにすることだけが、スポーツビジネスの正解ではなくなっていくのかもしれないんですよね。

──先ほど岡田さんから「HADOはスポーツだ」という言葉が出ましたけれども、スポーツ観戦のあり方が大きく変わっていくことで、HADOのようなARスポーツがさらに注目されていくのかもしれないですね。

福田 観戦というところで言うと、HADOはARの映像表現なので、実際に会場にいて見るだけでは何も見えないんですよ(笑)。もともと画面越しでないと楽しめないスポーツですから、だったらオンラインで十分だろうと。とはいえ、みんなが集まることで生じる熱気を楽しむファンもいるでしょうから、その人たちにはチケットを販売していくビジネスはありだと思っています。

岡田 ビジネスということで言えば、コロナによって不要不急のものに、みんながお金を払わなくなってしまった。ずっと家に篭りきりで、お金を使わずに暮らすこともできるって気づいたからね。むしろ目に見えない価値、あるいは数字で表せない価値というものに目を向けるようになった。そういう時代にあって、HADOがどういう位置づけになるかということが大事だと思うんですよ。

福田 そこで重要な要素となるのが、コミュニティだと思っています。先ほども言いましたが、スポーツをやらない人たちというのは、世の中で圧倒的多数なんですよ。その人たちがHADOという新しいスポーツに出会うことで、チームを作ったり大会に出たりして、仲間やライバルが生まれる。「HADOのあとのビールが美味い」って話ですよね(笑)。そういうコミュニティが世界中に広まっていけば、いずれはサッカーを超える世界最大のスポーツになればいいなって……。

岡田 超えちゃだめだよ(笑)!

福田 もちろん今はまだ小さなスポーツですが、だからこそ今から頑張れば世界一になれるかもしれないし、メッシみたいな世界的なスター選手になれるかもしれない。そういう想像ができるのが、新しいスポーツを立ち上げる醍醐味だと思っています。

岡田 それが日本発だというのがいいよね。まず日本を地固めしないといけないから、本部を今治に置くか! 新スタジアムを作っても、年に30試合くらいしか使わないから、試合がない日に会見ルームをコートにするとかね。そうやって365日、地元の人たちも楽しめる場所を作ることができたらいいな。

福田 実はHADOを通して、アカデミーや選手育成をやっているんですよ。今後、今治発のスター選手を育成していくというのもいいですね。今は東京に強い選手が集まっているので、これから全国いろいろなところで拠点を作っていければと考えています。

岡田 いい選手を作ったら、移籍金で儲かるかな? あるいは岡田メソッドにHADOを加えるというのもありだな(笑)。

──福田さん、岡田さん、今日はありがとうございました。

<この稿、了>

福田浩士(ふくだ・ひろし)/株式会社meleap CEO
東京大学大学院卒業後、株式会社リクルートに就職。2014年に起業し、株式会社meleapを設立。”かめはめ波”を撃ちたいという想いからAR技術を活用し、HADO(ハドー)を作りだす。36カ国にHADOの店舗を展開。2016年からはAR/VR初の大会「HADO WORLD CUP」も開催。2020年には観戦者参加型の競技システムを立ち上げ、スポーツの新しい応援体験を広めている。「テクノスポーツで世界に夢と希望を与える」というビジョンを掲げ、サッカーを超えるスポーツ市場の創造を目指す。

岡田武史(おかだ・たけし)/株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長
1956年生まれ。早稲田大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。引退後、1997 年に日本代表監督となり史上初の W 杯本大会出場を実現。その後、J リーグでのチーム監督を経て、2007 年から再び日本代表監督を務め、10 年の W 杯南アフリカ大会でチームをベスト 16 に導く。2016年から株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長を務め、2014年にデロイト トーマツ コンサルティングの、そして2019年からはデロイト トーマツ グループの特任上級顧問に就任。

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