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アルゼンチン帰りの指導者がブランディングにこだわった理由 河内一馬(鎌倉インターナショナルFC監督兼CBO)<1/2>

 今週は久々に、ハーフウェイカテゴリーのクラブにフォーカスすることにしたい。現在、神奈川県リーグ2部に所属する鎌倉インターナショナルFC(以下、鎌倉インテル)。このクラブは昨年12月から《古都・鎌倉から世界へと繋がる「みんなのスタジアム」を作ろう!》というクラウドファンディングを開始。最終的に目標金額の3000万円を達成して話題となった(参照)

 県2部のクラブがなぜ、これだけの金額を集めることができたのか? その理由について「クラブが設立当初から、明確なコンセプトや目指す世界観といったものを提示していたからですね」と語るのは、今回ご登場いただく河内一馬さん。実は河内さん、2年前にも当WMに登場しており(参照)、今回は鎌倉インテルの監督兼CBO(チーフブランディングオフィサー)としてインタビューさせていただくことになった。

 河内さんは1992年生まれで東京都出身。FC東京の育成組織であるU-15むさしに所属していたが、18歳でプレーヤーの道を断念して、新潟のJAPANサッカーカレッジでスポーツトレーナー学科に進学する。しかし、ここでも進路変更。今度は海外で指導者となるべく、クラウンドファンディングで資金を集め、2018年から3年間、アルゼンチンの指導者養成学校『Escuela Osvaldo Zubeldía』で学ぶ。鎌倉インテルの監督兼CBO就任が発表されたのは昨年1月。今年、拠点を鎌倉に移して本格的な指導者生活に入った。

 ハーフウェイカテゴリー、とりわけ県リーグのクラブを取材していると、時おりこうした型破りな若い指導者と出会うことがある。小谷野拓夢監督を受け入れた、福山シティFCがまさに典型例。90年代生まれのエッジの利いた新世代の指導者を受け入れる土壌が、このカテゴリーには間違いなく存在する。ならば、鎌倉インテルの場合はどうか? ヒントは冒頭で紹介した、3000万円のクラファン達成にある。ぜひ、最後までお読みいただきたい。(取材日:2021年3月2日@鎌倉市)

<1/2>目次

*フットボールに限定せず、コミュニティとして存在したい

*「社会人チームの雰囲気って、わかってる?」と言われて

*「エボルビングマーブル」のエンブレムに込められた想い

Kazuki Okamoto/ONELIFE

フットボールに限定せず、コミュニティとして存在したい

──本題に入る前に、鎌倉インテルのクラウドファンディング達成、おめでとうございます。今回、3000万円の目標額を設定したわけですが、神奈川県リーグ2部のクラブがよくぞこれだけの金額を集めましたよね。

河内 自分たちでも驚いています。正直「行けるのか?」という思いもありましたけれど、高い目標に対してクラブ一丸となったからこそ達成できたと思っています。

──県2部というハーフウェイカテゴリーのクラブが、なぜこれだけの支持を集めることができたんでしょうか?

河内 このクラブは2018年設立なんですけど、初年度から明確なコンセプトや目指す世界観といったものを提示していて、それに対して共感してくれる人たちがファンになってくれたんだと思っています。それと同時に、クラブの中の人たちも、きちんとした戦略を立てて動いてきたことも大きかったのかなと。

──クラブが掲げるコンセプト、それを実現させるための戦略について、もう少し具体的に説明していただけますか?

河内 まずコンセプトですが、クラブ代表の四方(健太郎)が最初に掲げたのが「国際化」です。「インターナショナル」と名乗っているくらいですから、国際交流ですとか、グローバル人材の育成といったものに力を入れていることは、すぐに理解していただけると思います。ただし「なぜグローバルなのか」という部分が見えにくかったのも事実で、それを整理するというのがCBOとしての僕の最初の仕事でした。

 それで最初に掲げたのが「CLUB WITHOUT BORDERS」というビジョンでした。直訳すると「国境を持たないクラブ」なんですけど、もうひとつ「ボーダーを作らないクラブ」という意味も持たせてあります。たとえば年齢のボーダーとか、性別のボーダーとか、分野や領域のボーダーを作らないということですね。

──あえて「FOOTBALL CLUB WITHOUT BORDERS」としないところにも、意味がありそうですね。

河内 そうです。フットボールに限定せずに、コミュニティとして僕たちは存在したいと思っています。「CLUB WITHOUT BORDERS」というビジョンに共感して、集まってくれた人の中には日本人がいて、外国人がいて、女性がいて、男性がいて、さまざまなバックボーンを持った人たちがいます。鎌倉インテルはその人たちのハブとして機能しますが、集まるための理由は必ずしもサッカーでなくていいという考え方です。

──なるほど。今回のクラファンについても、CBOとしての河内さんが重要な役割を果たしていたと思います。クラファンを行うにあたり、どのような戦略があったのでしょうか?

河内 まず「グラウンドを作りたいんです」と言っても、なぜ鎌倉インテルのために作らなければならないのかというところに、きちんとした整合性を持たせる必要がありました。そのためには、きちんとしたブランディングが必要で、そこがブレてしまうと「鎌倉じゃなくてもいいよね?」という話になってしまいます。

 実は去年はコロナの影響で、ずっとアルゼンチンにいたんですけど、オンラインでコミュニケーションをとりながら、ブランディングのためのコンセプト作りに集中することができたんです。1年間、ずっとブレずに集中して作業することができたので、今回のクラファン達成に多少なりとも寄与できたと自分では思っています。

──アルゼンチンでの話は、のちほどあらためてお話いただきたいと思います。それにしても、四方さんはシンガポール在住、河内さんはアルゼンチン、そして他のスタッフは日本ですよね。当然、時差もありますから、オンラインでディスカッションするのも、いろいろ大変だったのでは?

河内 日本とアルゼンチンとの時差は12時間ありますから、確かに楽ではなかったですね。それでも、四方さんからは「なぜこのクラブを作ったのか」とか「このクラブは何を目指しているのか」という話を何回もヒアリングして、それをビジュアルやコピーに落とし込みながら1年かけてブラッシュアップしていきました。ブランディングの責任者として、非常に有意義な時間だったと思っています。

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