宇都宮徹壱ウェブマガジン

サッカーのオンラインサロンに旨味はあるか? ハフコミを運営するmusic.jpの戦略<1/2>

 今週は少しレアなテーマについて、深堀りしてみることにしたい。「オンラインサロン」である。Googleで入力すると、予測変換で「詐欺」とか「注意」とか出てくることから、オンラインサロンに対する一般のイメージは、決して良いものではなさそうだ。ところが「オンラインサロン サッカー」で検索してみると、意外と多くのサッカー関係者が開設していることに気づくはずだ。少なくとも、浦和レッズの杉本健勇がオンラインサロンを立ち上げた2019年とは、状況はかなり違ってきている。

 かくいう私も、今年の2月から『ハーフウェイオンラインコミュニティ(ハフコミ)』を開設した(参照)。運営をお願いしているのがmusic.jp(株式会社エムティーアイ)。もともとは音楽配信がメインの事業であり、オンラインサロン業界では後発組になるのだが、最近はハフコミをはじめ積極的にサッカー系のコミュニティを立ち上げている。なぜ今、サッカーのオンラインサロンなのか? そしてオンラインサロンは、サッカー業界のフロンティアとなるのか? もっと言えば、旨味はあるのか?

 そこで今回、music.jpオンラインサロンの戦略を探るべく、3名の方々にお集まりいただいた。まず、ハフコミのモデレーターでデジタルコンテンツ研究企画室の岡澤俊介さん。広報室の嘉山智子さん。そして、CLIMB Factory事業部の事業部長、柴田潤さんである。今回のインタビューでは、なぜ宇都宮がコミュニティを立ち上げたのかについても、この機会に知っていただきたく、最後までお読みいただければ幸いである(取材日:2021年3月3日、オンラインで取材)。

<1/2>目次

*「収益化が目的だと難易度が高くなる」理由

*大きく4つに分類されるオンラインサロン

*なぜ杉本健勇は一部ファンから叩かれたのか

「収益化が目的だと難易度が高くなる」理由

──皆さん、今日はよろしくお願いします。今回のインタビューですが、基本的にハーフウェイオンラインコミュニティ(以下、ハフコミ)のモデレーターである岡澤さんに質問させていただき、補足があれば嘉山さんと柴田さんにもお話いただく形で進めたいと思います。さっそくですが岡澤さん。株式会社エムティーアイに入社されてから、オンラインサロンビジネスに関わるようになった経緯について、まずはお聞かせください。

岡澤 今の会社に入社したのは2009年です。私にとっては3社目で、最初はmusic.jpのルート営業といいますか、レコード会社さんを訪問して楽曲を提供いただくような部署にいました。ジャンルでいうと、ボーカロイド関連だったり、声優の方に歌っていただいたり、という感じの音楽レーベルですね。

──もともと御社は、音楽配信サービスがメインだったそうですが、ちょうど岡澤さんが入社したタイミングというのが、ガラケーからスマートフォンに切り替わる初期の頃だったと思います。この環境変化が、オンラインサロンというジャンルへの進出を促したという見え方が可能かと思うのですが。

岡澤 そうですね。music.jpというサービスは、いわゆるガラケーの時代では国内の限られた競合他社さんと共に、多くの皆さんにご利用いただいていました。それがスマートフォンに切り替わる環境変化で、われわれのビジネスの前提条件も大きく変わっていきました。結果として音楽だけでなく、書籍やマンガや映画なども配信するビジネスを展開しています。

 10年前の環境変化と同じくらいのインパクトとして、ここ1~2年で想定されていたのが5Gの普及による通信環境の変化です。それによって今後、さまざまなサービスが生まれていくという予測のもと、オンライン上でのコミュニケーションツールとして『music.jpオンラインサロン』というものを立ち上げたのが、去年の3月でした。

──去年の3月といえば、まさにコロナ禍の影響によって、オンライン上でのコミュニケーションというものを否応なく受け入れていた時期と重なりますね。

岡澤 そうですね。コロナ禍によって、オンライン上でのニーズというのは確かに高まっていると感じています。そうした中で、オンラインサロンという仕組みやスキームに興味を持つオーナーさんや、サロンメンバーになる方も増えているように実感します。

嘉山 補足させていただきますと、弊社はオンラインサロンを始める前から20年以上、さまざまなコンテンツを製作していく中で、マーケティングのノウハウも積み上げてきました。music.jpオンラインサロンの強みとしては、開設後のサロン運営を自社で培ってきたマーケティング手法でサポートできるという点にあるかと思います。

──嘉山さん、ありがとうございます。エムティーアイの場合、オンラインサロンビジネスへの進出は、わりと後発というイメージがあるのですが、後発ゆえの強みというものもあるかと思います。オンラインサロンというビジネスは、日本では4~5年くらいの歴史があるそうですが、有名人がサロンを立ち上げたものの、上手くいかずに閉じてしまうケースが多く見られました。そうした難しさを、どうクリアしていこうと考えたのでしょうか?

岡澤 私の見解ではありますが、最初の頃は比較的安易にメンバーを集めれば、収益化ができると考える方が多かったのではないかと思います。でも実際にやってみると、思っていた以上に手間がかかったり、なかなか会員が集まらなかったり。当初イメージしていたものとのギャップに戸惑って、継続が難しくなったケースが多かったように思います。

 われわれは後発ですから、さまざまなサロンに参加させていただく形で、リサーチを続けてきました。そこで感じるのは、収益はあくまでも「結果」でしかなくて、オンラインサロンの本質はコミュニケーションツールである、ということです。クローズドな環境で、より深いコミュニケーションを取ることで、そこに価値を感じる方が増えていけば収益となります。最初から収益化が目的だと、難易度が高くなるのかなと思っています。

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