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米独目線で考える「スーパーリーグ頓挫の理由」 中村武彦✕中野吉之伴スペシャル対談<2/2>

米独目線で考える「スーパーリーグ頓挫の理由」 中村武彦✕中野吉之伴スペシャル対談<1/2>

 

<2/2>目次

*スーパーリーグをヨーロッパでやっても意味がない

*代表戦のバリューが下がっているのはドイツも同じ

*スーパーリーグは「Jプレミア化」の教訓となるか?

スーパーリーグをヨーロッパでやっても意味がない

──ここまでの議論をいったんまとめると、今回の欧州スーパリーグ構想を後押しする要因となったのが、UEFAによるCLリフォームへの反発、コロナ禍による経営危機、そしてフットボールが若者たちの間で「オワコン化」しているという状況が挙げられると思います。ここで視点を変えてみましょう。スーパーリーグが頓挫せずに実現した場合、若者の関心を集めるなどのポジティブな影響はあったと思いますか?

中村 国内リーグをほとんど観ていない若者たちからすれば、強豪同士が毎週対戦するリーグというものに関心を示していた可能性はあったと思います。こういう形で収束したスーパーリーグですが、クリティカルに捉え直してみると、すべてが残念だったわけではないと思っています。繰り返しになりますが、今のUEFAのやり方やCLのリフォームのあり方が、全面的に正しいわけでもないので。ただし、あまりにも段取りが悪すぎた(笑)。

中野 僕もスーパーリーグを実現させることで、若者たちが興味を持った可能性はあったと思います。たとえばアイススケートの場合、通常の採点競技とは別にエキシビションがあって、エキシビションならではの素晴らしさや面白さがあるじゃないですか。今あるサッカーとは違うあり方という意味でスーパーリーグも、そうした打ち出し方をしていけば、存在意義もあったんじゃないですかね? ただ、それで興味を持った若者たちがサッカーというスポーツを始めるかというと、またそれは違うテーマにはなると思いますけど。

──まあ、そうですよね。中野さんが考えるエキシビションというのは、シーズン開幕前にアメリカやカタールなんかで開催されている花試合のイメージですか?

中野 それに近いといえば近いですけど、そういう試合ってアメリカやカタールでやるから意味があると思うんですよね。新規のファンや、ビジネスパートナーの開拓にもつながるでしょうし。でも、それをヨーロッパでやっても意味ないですよね?

中村 わが社が主催しているパシフィック・リムという大会は、北米とアジアのクラブチームを招いてハワイで開催しているんですけど、あれはサッカーが基本的に存在していない場所だから喜ばれるんですね。特に子供たちは、実際にプロのサッカーを観て大喜びするわけですよ。でも、いくらビッグクラブ同士の対戦だからといって、それをわざわざヨーロッパでやる意味は、ほとんどないと思いますね。

──ようやく欧州スーパーリーグに対する、違和感の本質が見えてきたように思います。同時に感じるのが、欧州では自国のフットボール文化に対するプライドがある一方で、好むと好まざるとに関わらず「アメリカのビジネスメソッドを取り入れなければ生き残れないという、ある種の強迫観念のようなものが透けて見えるように感じます。このあたりについて、中村さんのご意見はいかがでしょうか?

中村 僕はアメリカとヨーロッパ、両方で働きましたけれど、アメリカでは完全な「事業」であるのに対して、ヨーロッパはやっぱり「文化」であることが前提なんですよね。ですからそこは、アメリカ人のオーナーも尊重するほかないところではあると思います。一方でヨーロッパのクラブの中には、アメリカから輸入されたメソッドを取り入れようとしているところもありますが、全体から見れば限定的だと思います。それこそスペイン3部とかで、アメリカ的な経営をしているクラブとか、ほとんどないでしょうね。

中野 ドイツのクラブに関して言えば、以前と比べてマーケティング部門とかスポンサー部門とか、あるいはSNSやグッズに精通したスタッフを採用するようになりましたね。実際に向こうでスポーツビジネスを学んだ人も増えていますし、そういった人材の需要もあるんだと思います。もちろん、アメリカで学んだものをそのまま持ち込むのではなく、ドイツで展開するためのアレンジは必要でしょうけど。

中村 中野さんのおっしゃるとりで、いかに自国流にアレンジするかが重要だと思います。僕の知っているところだと、オランダのフローニンゲンにMLSで働いていたスタッフがいて、自分が学んだメソッドをいかにオランダ流に置き換えるか、試行錯誤していますね。そうかと思えば、ACミランのアイヴァン・ガジディスCEOは、もともとはMLSのコミッショナー代理だった人です。

──MLSが始まった90年代半ばでは、考えられなかったキャリアですよね。

中村 そうですよね。MLSだけでなく、最近はNFLの人材もどんどん欧州に進出しています。それこそ、今回のスーパーリーグ参加を表明していたリバプールにしても、マンチェスター・ユナイテッドにしても、アーセナルにしても、もともとはNFLのオーナーだった人たちですからね。ついでに言えばMLSのコミッショナーも、NFLの元幹部です。

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