宇都宮徹壱ウェブマガジン

この10年での最も大きな変化は「SNSが入ってきたこと」 今明かされるJ.LEAGUEメディアポータル開発物語<1/2>

 新型コロナのワクチン接種に関する、笑うに笑えない残念なニュースが続いている。申し込みが殺到してシステム障害が発生したり、電話も窓口も受付がパンク状態になったり、申し込みをインターネットに限定したら高齢者が申し込めないという事態が続出したり。と思ったら、防衛省が開設した大規模接種会場向け予約サイトが、架空の接種券番号でも予約を受け付けてしまうことが発覚。こちらについては、問題の本質から離れたところでの不毛な議論が今も続いていて、げんなりすることこの上ない。

 一見、サッカーとは関係なさそうな話題からスタートしたのは、もちろん理由があってのことだ。Jリーグでは今年から、メディア関係者に向けての新しい取材申請システム「J.LEAGUEメディアポータル(以下、メディアポータル)」をリリースした。詳細は本文に譲るが、画期的だったのは、申請が受理された記者に個別のQRコードが配布されること。会場の受付では、スマートフォンで見せてもいいし、出力した紙を見せてもいい。つまり、デジタル世代とアナログ世代、双方に親切なシステムになっているのである。

 今回は、このメディアポータルの開発の当事者である、Jリーグ広報グループのグループマネージャー、吉田国夫さんにご登場いただく。かれこれ10年以上、取材現場でお世話になっている吉田さんだが、このような形でお話を伺うのは初めて。インタビューのメインテーマは、このメディアポータルについてである。もっとも、われわれメディアの人間ならともかく、一般のJリーグファンには「関係ない話」と感じられるかもしれない。それでも今回のインタビュー記事は、Jリーグファンと同業者に向けて、魂を込めて書かせていただいたものである。

 自らのミッションについて、吉田さんは「Jリーグ全体の価値向上のため」と定義している。ならば、その目的のために広報グループは、具体的に何を考え、どのように実践しているのか? コロナ禍というJリーグ史上最大の試練は、広報というポジションからどのように見えたのか? さらにはメディアのあり方が変容する中、Jリーグはスポーツ報道の未来像をどのように見据えているのか? これらの疑問のひとつひとつが、実はメディアポータル開発と密接にリンクしているのである。

 そこで今回は「メディアポータル導入」をキーワードにしながら、知っているようであまり知られていないJリーグ広報グループの仕事について、吉田さんの言葉を引き出しながらお伝えする。なお今回のインタビューでは、メディアポータル開発を技術面から支えた、同じく広報グループの柴田宣行さんにも同席していただいた。お忙しい中、取材にご協力いただいたおふたりには、あらためて御礼を申し上げたい。(取材日:2021年4月12日。オンラインにて実施)。

<1/2>目次

*取材者をひとりずつアカウント登録する理由

*もしも決済のタイミングが1年延びていたら

*目指したのは「怠けることができるシステム」

取材者をひとりずつアカウント登録する理由

──今日はよろしくお願いします。本題に入る前に、あらためまして吉田さんの基本情報を確認させてください。まずは現在の役職名から教えていただけますか?

吉田 私の役職名は、自分でも覚えてられないぐらい長い名前なんです(苦笑)。今は「コミュニケーションマーケティング本部 コミュニケーション部 広報グループ グループマネージャー」ですね。

──Jリーグに来られたのが2009年ということですが、ずっと広報畑でしょうか?

吉田 基本的にそうですね。途中1年3カ月ほど、人材育成というか研修や選手教育の部署にいました。それを除けば、ずっと広報で今では一番の古株です。今日はもうひとり、柴田にも同席してもらっています。細かいシステム的な話などは、柴田にフォローしてもらいながら進めていければと思います。

──わかりました。もうひとつ、基本的な質問をさせてください。 Jリーグのファンからすると、クラブの広報というのはイメージしやすいと思うんですけれども、Jリーグの広報というものを定義していただくとすると、どのようなものになりますでしょうか?

吉田 われわれはリーグ全体の仕事、より具体的にいえば、Jリーグ全体の価値向上のため、あるいは組織運営や円滑な試合開催のための告知などですね。日本プロサッカーリーグは公益社団法人なんですが、クラブの広報との一番の違いは「リーグ全体を統括する仕事をしている」ということになると思います。

──とてもわかりやすい説明、ありがとうございます。ここから本題に入るのですが、メディアポータルを導入する以前に、メディアチャンネルという取材申請システムがありました。これは吉田さんがJリーグに入る以前から、あったものでしょうか?

吉田 あれは2011年ですから、私はすでにいました。というか10年前に作った時の当事者です。その時は「もうFAXとかそういう時代じゃないよね」という意見がある一方で「いやいや、まだまだ紙は必要」というのが既存メディアを中心にあって、話し合いを重ねながら作っていったんですよね。でも実際にスタートしてみると、けっこう便利だったので、だんだん浸透していったんですが、それから10年経ってシステム自体が古くなってきていました。「そろそろ何とかしないと」というのが、まずありました。

──なるほど。メディアポータル導入には、他にどのような背景があったのでしょうか?

吉田 私がずっと課題感としても持っていたのが、アカウントの管理です。宇都宮さんのようなフリーランスの方々は、それぞれが個別のアカウントを持っていますよね。けれども新聞社TVのような企業メディアの場合、アカウントの単位が組織でひとつだったんですよ。そうなると、その試合にどなたがいらしたのかとか、最もよく取材されているのがどなたなのかとか、取材実態が正確には把握できなかったんです。だったらシステムを新しくした際、マイナンバーのようにIDをそれぞれ持っていただくことにしようと考えたわけです。

──そういう背景があったんですね。とはいえ、新聞社1社でもかなりの人数になりますよね。柴田さん、アカウントの数は現在、どれくらい登録されているんでしょうか?

(残り 3651文字/全文: 6208文字)

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