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関東リーグとは思えぬスタジアムが栃木市に作られた理由 大栗崇司(栃木シティフットボールクラブ代表)<1/2>

 先月末に掲載した、栃木シティFCのホームスタジアム『CITY FOOTBALL STATION(以下、CFS)』のコラムは、こちらの予想を超えた反響をいただいた。この夢の舞台を作り上げたのが、今回ご登場いただく栃木シティFC代表の大栗崇司さんである。大栗さんは1983年生まれの38歳。2012年に29歳で株式会社日本理化工業所の社長に就任し、それから5年後の17年にはフットボールクラブの代表となった。

 ぽっと出てきた印象もある栃木シティFCだが、そのルーツは1947年設立の日立栃木サッカー部。栃木県リーグと関東リーグを行き来しながら、2006年に日立栃木ウーヴァSCに、さらにJFLに昇格した10年に栃木ウーヴァFCとなった。大栗さんが代表に就任した17年はウーヴァ時代の末期。この年、ウーヴァはJFLで最下位となり、9シーズンぶりに関東1部に降格している。そして19年、現在の栃木シティフットボールクラブと名を改め、クラブカラーもエンブレムも一新。そして今年、CFSが華々しくオープンした。

 純然たるアマチュアクラブと若き経営者との運命的な出会いが、栃木シティFCのターニングポイントであったことは間違いない。ここで注目すべきは、クラブが地域リーグにありながら、17億円もかけて最新設備の5000人収容のスタジアムを作ったことだ。施設への初期投資を惜しまず、興行によるビジネスを回しながら、さらなる投資を呼び込んでいく。アメリカのスポーツビジネスのスタンダードだが、これは大栗さんアメリカ留学の経験と決して無関係ではないだろう。

 さらに大栗さんのプロフィールを遡ると、アルビレックス新潟のゴール裏にまでたどり着く。しかも旧JFL時代(1998年)というから、まだ中学生時代の話。そうした経験もまた、その後のキャリアに少なからず反映されていると思われる。今回のインタビューではCFSのみならず、大栗社長が栃木県南部で進めている壮大なビジョンについても語っていただいた。新潟や栃木SCのサポの皆さんにも、ぜひ読んでいただきたい内容となっている。(取材日:2021年5月11日@東京)

<1/2>目次

*「スタジアム」や「アリーナ」ではなく「STATION

*建設費の17億円はどのようにして調達したのか?

*将来的には佐野市や小山市や足利市もホームタウンに

「スタジアム」や「アリーナ」ではなく「STATION

──今日はよろしくお願いします。本題に入る前に、今季の関東リーグ1部について伺いたいと思います。昨シーズンは地域CLの決勝ラウンドに進出したものの、あと一歩でJFL昇格を逃して迎える新シーズン。依然として「地獄の関東リーグ」の状態が続いているという印象でしょうか?

大栗 そうですね。僕らが停滞していて、昇格できていないのもあるのですが、毎年各チームがチーム力をどんどん上げているように感じます。今シーズンは初戦のエスペランサSC戦を落としてしまい、東京23FCにも引き分けてしまったので、現状では首位のブリオベッカ浦安との勝ち点差が3あります。とはいえ、昨シーズンと違って試合数が多いので、ひとつひとつ勝っていくしかないですね。

──昨年の地域CLで昇格の夢が絶たれたあと、クラブ代表として最初にとったアクションは、どのようなものだったのでしょうか?

大栗 決勝ラウンド3日目第1試合で負け、数字上では第2試合の結果次第でも昇格の可能性があったのですが、第2試合の途中で僕は会場を離れることにしていました。第2試合目のハーフタイムの時に、岸野靖之CSO(戦略統括責任者)と共に中村敦監督を呼んで「来年も監督をお願いします」と伝えました。中村監督については、守備からしっかり入るスタイルで、去年は失点が非常に少なかったことを評価しています。残念ながら、今季は失点が多いですが(苦笑)。

──さっそく本題のCFSについてお話いただきたいと思います。先日、取材に訪れて「日本にもこれほどフットボールファンのツボを押さえたスタジアムが誕生したんだ!」と深い感慨を覚えました。まずネーミングですが、なぜ「スタジアム」とか「アリーナ」ではなく「STATION」としたのでしょうか?

大栗 STATIONは「駅」と訳されることが多いですが、僕は「人が集まる(場所)」という意味を込めました。昨年はコロナの影響で大々的にできませんでしたが、来場者の皆さんがとことん楽しめる「シティ祭り」というものを、毎回ホームゲームでは実施しています。特にステージ上でのイベントですとか、キッチンカーを含めた飲食ですとか。極端な話、サッカーを見なくても楽しめるよう、こだわりながらやっていました。

──実際、スタジアムの周囲にもイベントができるスペースがありましたし、飲食についても地域リーグとは思えないくらいの充実ぶりでしたね。それとグッズ販売も、独立した建物になっていて驚いたのですが、個人的に注目したのが販売された品々。クラブの関連グッズはわかるとして、佐野ラーメンやイチゴといった栃木の名産品がお土産として並んでいました。これはやはり、シティプロモーションを意識したものなんでしょうか?

大栗 そうですね。僕らはいちご狩りやブルーベリー狩りができる『いわふねフルーツパーク』も経営しています。「イチゴや野菜を買って帰れるスタジアムのようにすると面白いのではないか」というアイデアからスタートしています。関東リーグとはいえ、県外からのお客さまもいらっしゃいますので、あの場所が(栃木)県南のシティプロモーションの拠点として機能すればいいなと思っています。

──他にもいろいろ感心することが多かったのですが、最も感動的だったのがホームとビジターとの差別化。ベンチだけでなく、サポーター席もそうでしたよね。ホーム側は、立って応援する前提で手すりが付いていましたが、アウェー側は何もない芝生席。随分と思い切った設計だなと。参考にした施設はあったのでしょうか?

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