「昇格も降格もない」Jクラブの存在意義 J3・福島ユナイテッドFCの場合<1/2>
5月10日、2021Jリーグシャレン!アウォーズの各賞決定が発表された(詳細はこちら)。横浜F・マリノスや清水エスパルスのようなJ1クラブ、あるいはアルビレックス新潟のように地元で絶大な人気を誇るJ2クラブと並んで、J3クラブのガイナーレ鳥取(メディア賞)、そして福島ユナイテッドFC(パブリック賞)を受賞したことが、個人的には嬉しかった。
今年のシャレン!アウォーズに関しては、スポーツナビの企画として、Jリーグの佐伯夕利子理事にお話を伺っている(参照)。福島が受賞した「福島県産品PR・販路拡大事業」について、佐伯理事の評価は思いのほか高いもので、これまた個人的に嬉しかった。以下、引用する。
福島さんの場合(中略)何がすごいって、クラブ内に「農業部」というセクションが創設されていることなんですね。地産地消というのを絵に描いたような取り組みだなと思っています。私が大切にしている、シャレン!の評価軸のひとつが「選手のプレゼンスがあるかどうか」。福島の場合、クラブスタッフだけでなく選手も泥まみれになって、農作物を作り販売に参加している。他クラブも真似できる、良いロールモデルでないかと思っています。
今週は、福島ユナイテッドFCの竹鼻快GMにご登場いただく。竹鼻さんは1976年生まれの45歳。大学卒業後、1999年に湘南ベルマーレのスタッフとなり、強化や運営などのクラブ業務を経験。2007年からは当時JFLだったガイナーレ鳥取に転じ、31歳の若さでGMとなる。そして鳥取のJ2昇格に貢献して、12年途中から東北リーグ1部だった福島のGMに招かれ、この年の地域決勝を突破。クラブがJFL(13年)、J3(14年~)とカテゴリーを上げる中、一貫してクラブの強化と環境整備に尽力してきた。
今回、竹鼻さんにインタビューを申し込んだのは、シャレン!アウォーズでの受賞がきっかけだった。この人との付き合いは、鳥取時代から10年以上になる。いろいろクラブの現状について伺っているうちに、話題はシャレン!を超えて「昇格も降格もない」Jクラブの存在意義に多くの時間を割くこととなった。J2ライセンスはないものの、さりとて今のところ降格のリスクもない。福島のようなJ3クラブは、どんな存在意義をもって活動を続けているのか。これが、今回のインタビューのメインテーマである。
実のところ、福島ユナイテッドFCの存在意義を突き詰めると、クラブが7年前から始めた農業部と社会連携に行き着く。福島をはじめJ3クラブのファンは、ぜひ最後までお読みいただきたい。なお、福島のシャレン!アウォーズの授賞式は、6月6日にとうほう・みんなのスタジアム(とうスタ)でのホームゲームにて開催される(参照)。現地観戦を予定されている方は、私の分まで盛大な拍手を関係者に送っていただければ幸いである。(取材日:2021年5月20日。オンラインにて取材)
<1/2>目次
*福島ユナイテッドといわきFCの「国盗り合戦」
*農業は「チケットやグッズと並ぶ収益の柱」
*ナイジェリア出身のイスマイラは化けるか?
■福島ユナイテッドといわきFCの「国盗り合戦」
──まずは、シャレン!アウォーズでのパブリック賞受賞、おめでとうございます。農業部の話はのちほど伺うとして、取材で先日(5月16日)お邪魔しました、郡山市でのホームゲーム開催について伺いたいと思います。前回の郡山西部サッカー場での試合は、雷雨のため途中で中止となり、後日、福島市のとうスタで開催されたそうですね。
竹鼻 去年のFC岐阜戦ですね。前半が終わったところで雷雨となり、そのまま試合続行ができないという判断となりました。西部サッカー場はJ3の基準も満たしていなくて、避雷針もないんですよね。とうスタに関しては、東京五輪で運動公園が野球とソフトボールの会場になるんです。そうなると1カ月前くらいから公園に入れなくなるので、Jリーグからも「それなら仕方ない」ということで郡山開催を認めてもらえました。実はJFLの時も、郡山で試合をしようと思ったら大雪で中止になっているんですね。
──あ、思い出した! ホンダロックSC戦ですよね? ロック総統がアウェーに乗り込んでいったら、雪のため中止になってしまって、福島サポと雪合戦をしていた動画を見た記憶があります(笑)。
竹鼻 あの試合は4月だったんですけど、郡山はとんでもない積雪だったんですよね。JFLの事務局に電話したら「雪が降っている? 試合はできるんじゃない?」って、東京の感覚で言われて。仕方がないので写真を送ったら「ああ、これは無理だね」と(笑)。
──雪が降ったり雷雨になったり、大変でしたね。そうすると先日の試合が、J3の試合が郡山で成立した初めてのケースですか?
竹鼻 初めてです。実は郡山には陸上競技場もあって、今はなき福島FCが何度かホームゲームを開催したらしいんですが、ピッチの縦が105メートルに足りないのでJ3の開催ができません。アクセスはいいんですけどね。西部サッカー場は、駅からけっこう離れているし、駐車場も限りがあるんですが、それでも開催する価値は十分にあります。
徹壱さんはご存じのように、福島には4つの大きな市があります。福島、いわき、会津若松、そして郡山。いわきは取られちゃっていますから(笑)、郡山を巻き込んでいくためには、やっぱりそこで試合をしていかないといけない。郡山の企業さんに営業に行っても「でも、福島(市)のチームでしょ?」で終わってしまうんですよ。その意味でも、郡山開催が実現できて、しかも勝てたのは大きかったですね。
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