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【無料公開】メンバーの固定化は指揮官だけの問題か? なでしこJAPANの敗北と再生をめぐる対談<2/2>

なでしこの批判記事は「手のひら返し」?

──今回のリオ五輪予選敗退を受けて、「マスコミの手のひら返し」という意見がネットを賑わせていました。確かにゴシップめいた報道があったのも事実ですが、取材する立場からすると「批判記事=手のひら返し」と言えない部分もあったように思います。というのも、予選や大会が始まると、いったんはネガティブな記事を封印して応援モードになることって、男子の代表でも普通にあることなんですよね。で、敗退が決まったタイミングで、それまでストックされていたネガティブな情報をもとに記事が書かれるという。

上野 石井さんは一連の報道を読まれてどう思いました?

石井 僕は悪意のあるゴシップとか根拠のない記事って、ほとんど見てないんですよ。なので、僕は「手のひら返し」だと全然思ってなくて、むしろきちんと取材をして、取材対象者から聞いた話をもとに書いているなと感じました。むしろ女子サッカーについて、あれだけ紙面を割いてくれたことには好感が持てました。「誰それが代表引退か?」って記事が、唯一ゴシップかなと思ったんですけど。

──「代表引退」の報道に関しては、しばらく様子を見る必要がありますね。

石井 いずれにせよ、ああいった検証記事というのは(予選敗退が決まった)あのタイミングで書くか、そこで書かないんだったら10年後とか20年後とかに発表するしかないと思うんですよ。あのタイミングで検証記事がたくさん出たことは、長年女子サッカーを観てきた者としてはむしろ感謝しています。

上野 マスコミの「手のひら返し」って、サッカーだけでなく、政治でも経済でもどこでもある話じゃないですか。ホリエモン(堀江貴文)もそうだし、古くは田中角栄もそうですよね。小学生ながら角栄さんの報道の落差はショックを受けました。

──逆に今は、田中角栄を再評価する論調をよく見かけますけどね(笑)。

上野 女子サッカーに話を戻すと、論調が180度変わることってこれまでに何度もあったんですよ。99年のワールドカップって、本大会での成績がそのままシドニー五輪に直結するレギュレーションで、大陸予選がなかったんですね。それで、なでしこのシドニー行きがなくなって、決まったとたんにダメ出しの嵐でしたよ。先日も元代表選手と話したら「なんでこの報道で騒ぎになるのか」と。彼女はシドニー五輪を逃しています。あの時の報道に比べたら、今回はそれほど酷いレベルではないかなと。

石井 あの時はもう、「日本の女子サッカーは終わる」くらいの論調でしたよね(苦笑)。

上野 もちろん、マスコミの「手のひら返し」そのものは、褒められたものではないですよ。でも、そんなに糾弾すべきことかな、というのは感じましたね。

石井 繰り返しになるけど、僕は記事を読んで「ここをもっと改善してもらわないと厳しい」という思いを読み取ったんですよね。で、それを書くタイミングというのは、予選敗退が決まった直後しかなかった。だからそんなに嫌な気持ちにはならなかったです。

──佐々木監督が予選最後の会見で、「僕が批判されるのはいいんだけど」と前置きした上でメディアに苦言を呈していたようですが、現場はどんな感じだったんですか?

上野 確かに苦言は呈していましたね。「同じサッカーファミリーとしてどうなの? 文化としてどうなの?」っていう。それは、記者の質問に答えてから「あと、いずれにしても……」っていう感じで、ノリさんのほうから切り出したんですよね。「僕の批判は全然いいんですけど」という言い方でした。

──ああ、そうだったんですね。

石井 佐々木監督は本当に「そういった記事はよくない」と思ってそう言ったんですかね? 僕はむしろ選手に対する風当たりを弱めたかったから、そういう内容をあえて口にしたんじゃないかと思います。

上野 僕もその意見に賛成ですね。「手のひら返しをするな」という意味ではなく、むしろ選手をバッシングから守りたいという思いが第一にあったんだと感じました。

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