宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】メンバーの固定化は指揮官だけの問題か? なでしこJAPANの敗北と再生をめぐる対談<2/2>

次期監督がピア・スンドハーゲでは厳しい理由

石井 ところで今回の予選敗退後の報道に関して、僕の周りで「手のひら返しだ!」って怒っているのって、圧倒的に男性が多いんですよね。

上野 それ、面白い意見ですね!

──女性の場合はどうです?

石井 女性の方は「あんなもんじゃない?」って感じで割り切って受け止めている人のほうが多いですよね。それはネットを見ていてもそうですし、実際に会話した人でもそうなんですよ。「8年もずっと一緒にやっていたら分裂するのは当たり前でしょ」とか(笑)。逆に男性ファンのほうが、感情に流されている印象ですね。

上野 僕はドイツで優勝して以降の5年間、実態と報道との乖離ってけっこうあるなというのを感じています。これはある選手が言っていたんですけど「私、囲み取材では本当のことは言いません」と。なぜかというと「質問がくだらないし、同じことしか聞かないので」ということだったんですね(苦笑)。昔、オシムさんが記者に対して「それは質問になっていない」ってプレッシャーをかけたりしていましたけど、それと同じことですよ。そこはメディアとして真摯に考えないといけないと思います。

──ちなみに今回の報道で、特に印象に残ったものってあります?

石井 ぱっと出てこないんですよね。なぜかっていうと、さっきも言ったように僕はJFAのサポートのことの方が気になっていたんですが、それについてほとんどのメディアが触れていないから。記事の中に最後の方に1行とか2行とか、さりげなく盛り込んでいるっていうのはあるんですけど。

──それを酌み取ってくれ、ということですかね。上野さんは?

上野 やっぱり早草紀子さんの書いたものですよね。彼女は筋を通しています! 彼女の中にはしっかりとした価値基準があって、「自分はこれ請けます」「これ請けられません」って、ギャランティ関係なしにきっぱり言える人なんですよね。彼女が女子サッカーを撮るようになったのって、L・リーグ時代の95年くらいだと思うんです。僕は写真の質のことはわからないですけど、選手との程よい距離感であったり、一貫した取材姿勢であったり、本当に筋が通っている。時には「今のままだと伸びないよ!」って、選手にはっきり言いますからね。そういうことも含めて、本当に素晴らしいと思いました。

──なるほど。ところで報道では、次期監督にU-20女子の高倉監督の名前が上がっていますが、このまますんなり決まりそうですかね?

石井 今のところ、高倉さん以外は思いつかないですよね。男性の候補者も何名かいらっしゃいますけど、それでも高倉さんにはやってほしいと思いますね。

──「海外から招へいすべき」という意見もあるみたいなんだけど、どうですかね。

上野 アメリカやスウェーデンを率いた(ピア・)スンドハーゲの名前が、一部メディアに挙がっていましたけど、僕は絶対にあの指導方法は日本に合わないと思いますよ。

──どう合わないですか?

上野 彼女の指導方法って、ばんっとモデルを提示して「あとは自分で考えなさい」というスタイルなんです。スカウティングは綿密なのですが、けっこう自由にやらせるんですね。日本の場合、攻撃も守備も細かい約束事でやっていますから、絶対に混乱すると思います。

 そう考えると、やっぱりコミュニケーションがとれる日本人監督、そしてそろそろ女性監督が出てきてもいいんじゃないかと。候補者としては高倉さんともうひとり、アンダー世代でコーチをやっていた本田美登里さんかなって思います。タイプは全く違いますが、どちらも優秀な指導者です。本田さんは先日インタビューしたら「クラブで世界一になりたい」とおっしゃっていましたね。

石井 ただ本田さんは、長野で市民向けの講演会をやったときに「やらない宣言」していましたよ。そう考えると、やっぱり高倉さんでしょうね。

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