宇都宮徹壱ウェブマガジン

「手のひら返し」は予想できたけれど 東京五輪でのメディア報道を考察する

  去年のちょうど今ごろだったと記憶する。1年後の2021年に延期となっていた東京五輪について、ある信頼できる友人から「どうも予定どおり開催されるみたいですね」という話を聞いたのは。その人は組織委員会やJOC、電通にも人脈があったので、それなりに確度の高い情報を得ていたのだろう。彼の語る話の内容は、当時の五輪開催をめぐる状況に照らすと、にわかに信じ難いものであった。

「今の状況からすると、おそらく海外からの観光客は入ってこられないでしょう。つまり、国際交流やインバウンドはなし、ということですね。あるいは国内の観客も、スタジアムに入れないかもしれない。そうなると、チケット収入も期待できないわけですよ。それを『五輪』と呼べるのかどうかわかりませんが(苦笑)、そういうビッグイベントが来年、予定どおり開催されるみたいです」

  それから1年。実際に友人の「予言」どおりに事は進み、8月8日に東京五輪は閉幕した。彼がどういうルートから、その情報を得たのかは知らないが、東京五輪の強行開催は1年も前からの既定路線だったのかもしれない。終わってみれば大会そのものは大いに盛り上がったし、コロナ禍の感染拡大によって大会が途中で中止にならなかったのはよかったと思う。開幕前、大会の中止もしくは延期が妥当というスタンスだった私も、今はそう考えている。

  とはいえ──。「このタイミングでの開催」については、やはり間違っていたと言わざるを得ない。開催地の東京では4回目の緊急事態宣言が発出され、デルタ株の蔓延によって1日の感染者数が4000人を超える日が続いた。加えて、この猛暑。アスリートたちは、理不尽な熱中症のリスクに否応なく向き合うこととなった。こんなデタラメな時期に大会が行われたのは、巨額の放映権料を支払っているアメリカNBCの意向を反映したためだが、そのNBCの視聴率も振るわなかったのだから救われない話だ(参照)

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