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【無料公開】『ディス・イズ・ザ・デイ』(文庫版)津村記久子

 J2の世界観を見事に表現した、芥川賞作家・津村記久子さんの小説が文庫化された。この作品は、朝日新聞での同名の連載小説を書籍化したもの。国内リーグ2部の最終節11試合の情景と、当該チームのサポーターの心情が丹念に描かれている。

 あまりに面白かったので、書籍化された2018年に大阪まで出向いてインタビューさせていただいたのがご縁で、今年の正月には当WMにて津村さんとの対談企画が実現。さらに新著『蹴日本紀行』の帯には、津村さんからの素敵なメッセージが飾られることとなった。

 本書の内容については、すでにこちらで紹介しているので、あらためて付け加えることはない。文庫版になると、著名人による「解説」が入る。今回、解説を担当したのは、浦和レッズのファンでもある小説家の星野智幸さん。さっそく引用してみよう。

 私は浦和レッズのファンなので、この作品で描かれるよりずっと巨大なスタジアムに観戦に行くのだけれども、試合が終わって埼玉スタジアムから浦和美園駅までのんびり歩く、三十分弱の時間が大好きだ。同じ方向に歩いている数万の人たちはまったくの他人で、それぞれが私と関わりのない人生を歩んでいるはずなのに、その日の数時間だけ、どこかで心を合わせながら手に汗握っていたのだと思うと、気が遠くなる。果てしもない宇宙に自分が消滅するような、あのめまいのような感覚がたまらない。世界はここに詰まっているんだと感じる。

「さすがは小説家!」と、思わず唸ってしまうこの一文が、まさに本書の本質を言い表している。もうひとつ、星野さんの解説の中で深く頷いた部分があるので紹介したい。

 私がこの解説を書いている現在は、コロナウイルスの感染が爆発する中で東京オリンピックが開かれている最中で、スポーツ観戦好きの自分と、五輪強行開催が許せない自分とが引き裂かれ、苦しくてしょうがないのだけど、この小説を読むことがどれほど救いになったことか。私の感じるスポーツの価値は、この小説の中にある。

 ちなみに星野さんは、第8話の「また夜が明けるまで」がお気に入りとのこと。3部降格寸前のモルゲン土佐の女性サポーターと、1部昇格を懸けて衝動的に高知までやってきたヴェーレ浜松の女性サポーター。まったく対照的な両者の心の交流を描いた第8話は、私にとっても印象深い作品だ。それともうひとつ、マスコット好きの内面を鮮やかに描ききった、第4話の「眼鏡の町の漂着」もお勧めしたい。

 さて、ちょうど本稿を書いている時に「Jリーグ 来季ホームタウン制撤廃へ」というニュースが飛び込んできた。もし事実だとしたら、津村さんが小説の中で描いた「豊かで優しい、地域のフットボールのある風景」が、急速に失われる危険性は否定できないだろう。ホームタウンの理念撤廃など、絶対にあってはならない話だ。定価900円+税。

【引き続き読みたい度】☆☆☆☆☆

※その後、Jリーグは公式サイトを通じて今回の報道を否定(参照)

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