宇都宮徹壱ウェブマガジン

「川越市からJを目指す!」90年代生まれの経営者たち 現在「11部」COEDO KAWAGOE F.Cの挑戦<1/2>

 OWL magazineによる初の書籍『〝サッカー旅〟を食べ尽くせ! すたすたぐるぐる 埼玉編』が、いよいよ今月下旬に刊行される。本書については、私も執筆者のひとりとして関わっているので、完成が心から待ち遠しい。ちなみに今回は、関東リーグ2部から将来のJリーグ入りを目指す、アヴェントゥーラ川口についてのレポートを寄稿している。

 アヴェントゥーラが本拠とする川口市は、人口がおよそ58万人。政令指定都市のさいたま市(約126万人)には大きく水を開けられているが、それでも新たなJクラブが生まれる土壌は十分にあると思っている。そもそも47都道府県で第5位の人口を誇る埼玉県にJクラブが2つしかなく、しかもいずれもさいたま市というのは、ちょっともったいないように感じていた。

 そんな埼玉県にはもうひとつ、新たにJリーグを目指すクラブが立ち上がった。県内第3位の人口(約35万人)を擁する、川越市を本拠とする「COEDO KAWAGOE F.C」である。ただしこちらは、関東リーグ(1部・2部)の下の埼玉県リーグ(1部・2部・3部)のそのまた下、川越市リーグのしかも2部。J1から数えると「11部」ということになる。さすがの私も、市リーグとなるともはや「魔境」に分け入るような気分だ。

 ありていに言えば、これくらいのカテゴリーのクラブが「Jを目指す」と宣言する場合、単なるハッタリであるケースが少なくない。それでも私が、このCOEDOに「取材しなければ」と直感した理由は3つあった。まず、このクラブがコロナ禍まっただ中の昨年7月に設立されたこと。次に、その年の10月には法人化されていること。そして、今年5月にフィナンシェのクラブトークンを発行し、何と1500万円を調達したこと。いずれも、市リーグ2部とは思えないスピード感とスケール感である。

 今回、取材に応じていただいたのは、代表取締役の有田和生さん(写真右)、そして取締役の中島涼輔さん。いずれも1991年生まれの30歳である。ふたりは埼玉県の富士見市立本郷中学校で出会った幼馴染。大学卒業後、有田さんは飲食業界に進んで経営者となり、中島さんはリクルート時代にSHC(公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル)で学びながら「いつかスポーツクラブを経営すること」を夢見ていたという。

 これまで私が取材したハーフウェイクラブで、最も若かった経営者は、渋谷シティFCの山内一樹さんと福山シティFCの岡本佳大さん。いずれも1989年生まれであった。その時は「平成生まれのクラブ代表」に慄いたものだが、ついに(市リーグとはいえ)90年代生まれの経営者が登場した。長く取材を続けていると、こういう面白い出会いがあるものだ。さっそく、野心あふれる若き経営者たちにご登場いただこう。(取材日:2021年8月17日@川越市)

<1/2>目次

*「すでにレッズやアルディージャがある」けれど

*コロナ禍まっただ中で新クラブを立ち上げた理由

*明治安田生命会長もJリーグチェアマンも川越出身

「すでにレッズやアルディージャがある」けれど

──今日はよろしくお願いします。COEDO KAWAGOE F.Cというクラブについて、私が知っていることはごくわずかです。川越市からJリーグを目指していること、現在は川越市リーグの2部を戦っていること、そしてフィナンシェのクラブトークンで1500万円を調達したこと、これくらいです。ものすごく基本的なことから質問させていただくことを、まずはご容赦いただければ幸いです。

有田・中島 もちろんです!

──簡単にクラブの概要から教えていただけますか?

有田 私たちは「川越から初のJリーグ参入」を目指して、昨年の7月に立ち上げたクラブです。ただチームが強いだけではなく、事業としてもしっかりやっていきますし、本当の意味で地域に根ざしたクラブを目指していきます。埼玉県には、浦和レッズと大宮アルディージャがありますが、いずれも荒川の向こう側です。県の南西部には、プロスポーツクラブがないという状況が、まずありました。

中島 「すでにレッズやアルディージャがあるじゃないか」という話もありますが、有田が言いましたように「ただ強いだけではない」という部分のみならず、川越という街のインフラのような存在になることを目指しています。昨年7月の立ち上げから1年ちょっと。「川越に夢と感動を創出し続けて、百年以上続くクラブへ」というスローガンに共感していただける企業さんも増えてきて、現在では40社ほどが集まっています。

──このカテゴリーで40社というのも、すごい話だと思います。ところでクラブ名ですが、COEDO KAWAGOE F.CCOEDOが「C」になっているのは、COEDOビールとの関連をすごく感じます。実際のところはいかがですか?

有田 僕と中島とでクラブ名を考えた時、まず「小江戸」という名前が浮かんだんですけど、アルファベットにした時の最初の文字が「K」ではなく「C」だと思いこんでいたんです。ふたりとも(笑)。

中島 そう!「KCか」という議論は、まったくなかったですね(笑)。

有田 ただしクラブを作るタイミングで、僕らの中では「まずはCOEDOビールさんにスポンサーになっていただこう」という思いがありました。なぜならCOEDOビールさんは、川越市を代表する企業であり、ブランドであるからです。幸い、われわれの胸スポンサーになっていただくことができました。

──もうひとつ気になったのが、FCFCの間にピリオド(.)がありますが、Cの後にはないですね。つまり「F.C.」ではなく「F.C」。これにはどんな意図があるんでしょうか?

有田 これについては「オンリーワンでありたい」という思いが込められています。たとえばFC東京や横浜FCはピリオドなし、京都サンガF.C.F.C.大阪はピリオドが2つあるじゃないですか。けれどもピリオドが1つの「F.C」というのは、現時点ではウチだけです。そこは差別化の意図がありますし、密かにプライドも持っています。

中島 幸いネーミングやロゴに関しては、SNSなどで高評価を受けています。それから、ユニフォームのデザインについても。「COEDO=カッコいい」というイメージが定着して、そこから興味を持って加入してくれた選手もいるくらいです。

──デザインワークって、本当に大事ですよね。とりわけ、立ち上がったばかりのハーフウェイカテゴリーのクラブの場合は。ちなみにデザインワークは、どういう方が担当されているんでしょうか?

有田 デザイン関連は、すべて中島の方で全体指揮をとっています。ロゴに関しては、昔からの知り合いである渋谷シティFCの小泉翔さんにデザイナーさんを紹介いただき、作成いただきました。以降はデザイン関連、SNS運用まわりはすべて、原則的に内製化しています。

──渋谷シティFCの影響は、かなり受けているんでしょうか?

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