「若い書き手の成長が日本サッカー界の財産になっていく」 「すたすたぐるぐる」の西葛西出版が目指すもの<1/2>
今週は「夢のある話」を提供したいと思う。
このほど出版された『”サッカー旅”を食べつくせ!すたすたぐるぐる 埼玉編』。その版元が、今年設立されたばかりの西葛西出版で、社長は皆さんよくご存じの中村慎太郎さんである。私はこの人を8年くらいウォッチしているが、研究者からライターに転身後、ある時は書店員となり、またある時はタクシードライバーとなり、とうとう会社社長になっていた。ずっとライター稼業をやってきた人間からすると、何とも眩しすぎる存在である。
なぜ出版社を作ったのか? その理由について「本を作っていくなら出版社を作るところから」と中村さん。いやいや、発想がぶっ飛びすぎでしょ! そう思ってしまうのは、決して私だけではないだろう。実は今回の起業については、中村さんから「どう思いますか?」と相談を受けたことがあった。随分と無茶なことを考えるんだなと思いつつ、その時は「実務ができる人と編集経験がある人がいないと難しいと思う」と答えておいた。
それからほどなくして「適任者が見つかりました!」との連絡が入る。何でもnoteで募集をかけたら、すぐに反応があったそうだ。それが、副社長の大城あしかさんと編集者の矢島かよさん。そこから一気に起業に向けてのブーストがかかり、書籍コードも取得して出版社を設立、さらにはクラウドファンディングを立ち上げて「すたすたぐるぐる」も無事に発売された。何というスピード感と行動力であろうか。
そんな西葛西出版だが、非常に高い志を持っている。それは「若い書き手を育てて世に送り出す」というもの。もともと、中村さんが主催するOWL magazineが、そういう理念で運営されており、そこからは五十嵐メイさんをはじめ何人もの若い書き手を輩出している。それを出版社で行おうというのだ。しかも出版不況という荒波に、あえて出航しようというのだから、その勇気と気概には心からリスペクトするほかない。
果たして西葛西出版は、どんな人たちが関わっていて、これからどんな書籍を作っていこうとしているのか? ちょうど、編集会議で皆さんが集まるタイミングを見計らって、お邪魔することにした。取材に応じていただいたのは、写真左から、編集の矢島さん、社長の中村さん、副社長の大城さん、そしてライターの五十嵐さんである。「すたすたぐるぐる」を読んだ人も、まだ読んでない人も、最後までお付き合いいただければ幸いである。(取材日:2021年11月4日@東京)
<1/2>目次
*なぜ「すたすたぐるぐる」は埼玉からスタートしたのか?
*2冊目の「すたすたぐるぐる」気になる県名とライター陣
*3冊目の「すたすたぐるぐる」はJクラブのない、あの県
■なぜ「すたすたぐるぐる」は埼玉からスタートしたのか?
──本日は西葛西出版にお邪魔しました。中村さん、大城さん、矢島さん、そして五十嵐さん、よろしくお願いします。まずは発売されたばかりの『”サッカー旅”を食べつくせ!すたすたぐるぐる 埼玉編』について伺いたいと思います。中村社長、このシリーズは47都道府県をめぐっていくそうですが、なぜ埼玉からスタートなのでしょうか?
中村 この企画は、サッカー旅という視点から各都道府県を回っていくというものです。その第1回が埼玉県なのですが、「なぜ埼玉」なのかというと、近いけど意外と知らないところだと感じたからです。サッカーどころとしての埼玉の価値を発見できるような本が作れたら、他の都道府県でも十分やっていけるかなと。
Jリーグでは大宮アルディージャと浦和レッズ、そしてWEリーグの浦和レッズレディースも、この本には出てきます。それと川越市2部リーグのCOEDO KAWAGOE F.Cとさつまいーも川越という「知られざる川越ダービー」も出てきます。まあ、当事者たちはダービーとは思っていないんですが(笑)。そんな感じでサッカーを通じて、なるべく埼玉県を広く紹介していくような作りにしました。
──私も今回、アヴェントゥーラ川口について書かせていただきました。読者からの反響はいかがでしょうか?
中村 反響が最も感じられたのは、クラウドファンディングを立ち上げた時ですね。読んでくれた方からは「すごくちゃんと作っているね」という評価をいただいています。「書籍コードがあるのがすごい」とか「丁寧に梱包してあるのがいい」という声もいただきましたね。面白かったのは「なぜ埼玉? と思ったけれど、読んでみると埼玉が必然だと気付きました」という感想が多いことでした。幸い「買ってがっかりした」というようなクレームは一切ないので、その点ではホッとしています。
──という中村さんが社長を務める西葛西出版なんですが、他のスタッフの役割について、それぞれ語っていただきたいと思います。まずは副社長の大城あしかさん。
大城 私は完全に裏方で、会社の事務や本を出すために必要なこと、わかりやすい話でいうと、書籍コードの取得と管理を担当しています。日本図書コードセンターというところに書類を提出するんですが、その書類作りがけっこう面倒でした。とりあえず100冊分のコードは取得しましたので、西葛西出版からはあと99冊出せます(笑)。
中村 書籍コードだけでなく、会社を立ち上げることって延々と書類作りが続くんですよ。それをあしかさんにやっていただいて、僕らは好きなことをやらせていただいているという感じです。
──そしてもうひとり、西葛西出版で不可欠な存在なのが、編集者の矢島かよさん。本書でも寄稿されていますが、他にどんなことを担当されたのでしょうか?
矢島 デザイナーさんとイラストレーターさんとのやりとりだったり、それから本文のデザインと本文のDTPだったり、あとは編集と校正校閲も行っています。
──まさに八面六臂の活躍ですね。これまでどんなお仕事をされてきたんでしょうか?
矢島 最初は、週刊誌の本文のデザイナーとして編プロ(編集プロダクション)に入って、ライティングもそこで学びました。それから出版社に転職して編集者になり、3社目では編集とライティングに加えてインタビュー取材も経験しました。
──なるほど。これほど経験豊かな編集者がいれば、本当に心強いですね。そんなかよさんにとって、今回の制作では何が一番大変でしたか?
矢島 やっぱり統一感を保つことですよね。複数の方が書いているので、用語やテイストの統一、それとスケジュール管理もしっかりしないといけませんでした。
──五十嵐メイさんは、今回は執筆陣には入っていなかったんですが、次回からですか?
五十嵐 そうですね。次回は書かせていただく予定で、すでに取材は済ませています。今回は、クラウドファンディングの返礼である「あなたのサッカー旅記事を作ります」という企画でライターとして関わる予定です。
──それにしても、これだけ強力なメンバーをnoteで集めたというのが、すごいですよね。
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