宇都宮徹壱ウェブマガジン

7カ月半でクラブの体質を変えた「ヒダリトモ革命」 左伴繁雄(カターレ富山代表取締役社長)<1/2>

 2021年シーズンのJリーグの最終節、皆さんはどこのスタジアムで迎えただろうか? 私は3カ月前から決めていた。富山県総合運動公園陸上競技場(通称、県総)で12月6日に開催された、J3のカターレ富山vs鹿児島ユナイテッドFCである(参照)

 すでに富山のJ2復帰の夢は、前節で絶たれていた。加えて私は前日、今治でどうしても外せない仕事があった。なので、まずは今治からしまなみ海道をバスで渡って福山へ。そこから新幹線で京都まで出て、特急サンダーバードに乗り換えて金沢で一泊。翌日にIRいしかわ鉄道で富山に向かった。なぜ、そこまでして県総を目指したのか? それは「ヒダリトモ革命」1年目の成果を、この目で確認するためである。

 2022年最初にご登場いただく、左伴繁雄さんがカターレ富山の代表取締役社長に就任したのは、2021年4月21日のこと。この時、すでにJ3リーグは5試合を消化しており、富山は首位のいわてグルージャ盛岡を3ポイント差の2位だった。上位につけていたとはいえ、編成はもちろん、予算組みもすでに決まっていた状況での社長就任。そんな状況から「ヒダリトモ革命」の1年目はスタートしていた。

 それから7カ月半、県総を取り巻く風景は、どのように変化したのか──。それを確認したくて、私は今治から富山までの大移動を敢行した。左伴さんには申し訳ないが、富山がJ2に昇格するかどうかは、実はそれほど気にしてはいなかった。それ以上に私が重視したのが「クラブ社長が変わることで、クラブや地域はどう変わるのか」だったのである。

 今回のインタビューは、11に終わった鹿児島戦の直後に実施。最終戦を終えたばかりのタイミングで、番記者でもないのにクラブ社長に単独インタビューできる僥倖を噛み締めながら、その時の肉声をWM会員の皆さんと共有することとしたい。

 富山サポならずとも、このインタビューから共感を得る人は間違いなくいるはず。あらためて左伴さんに感謝しつつ、より多くのサッカーファンに届くことを願わずにはいられない。(取材日:2021年12月6日@富山市)

<1/2>目次

*社長に就任して最初に着手した「メディア対応」

*キーワードは「シャーレが日本アルプスを超える」

*富山の集客アップを阻む「日本海側特有の天候」

社長に就任して最初に着手した「メディア対応」

──2021年最後の試合が終わりました。左伴さんにとっても激動のシーズンだったと思いますが、まずは今の率直な感想からお願いします。

左伴 終わった感じがしませんよね。社長に就任したのが4月20日、リーグ戦の途中だったので7カ月半ぐらいですよ。この仕事は1年サイクルなので、言葉は悪いですが、7カ月半というのは中途半端な感じはありますね。

──清水エスパルスの1年目も、すでに編成が決まってからの社長就任でした。今回はそれよりもさらに遅いタイミングでの就任だったんですよね? 今だから言える「こんなはずでは」みたいなものがあったら教えてください。

左伴 まず戦力的なところでいうと、今年はJ2に戻ることがクラブとしての目標でしたが、出来上がったチームを見て「もう少しテコ入れしないと厳しいだろうな」という思いはありました。そのタイミングが夏にしかなかったので、その点でまず苦労しました。それ以上に自分の見込みの甘さを痛感したのが、カターレ富山の地元での認知度でした。

──もう少し高いと思っていましたか?

左伴 そう、大外れでしたね。集客で苦労していることは知っていました。去年(2020年)の1試合平均が1200人ちょっと、雨が降れば700人くらい。でも、そういう現場がどんなものなのか、僕も経験がなかったので、そこの見込みは甘かったのかなと。いちおう地元の皆さん、カターレ富山の名前は知っているんだけど、それがどういうものかがイメージできない。駅前や繁華街に行っても、フラッグもなければポスターも見かけない。僕が来る前は、スタジアム行きのシャトルバスの案内板もなかったですから。

──まず、そこからですか!

左伴 まさに、そんな状態でのスタートでした。クラブのオフィスも街中から遠いので、ファンやサポーターや市民の皆さんと触れ合う機会が少ないんですよね。クラブとのタッチポイントが、あまりにも少ない。そこでまず何から始めたかというと、メディアの皆さんに頭を下げて、社長である僕を露出してもらうことですよ。僕が出ていくことで、なるべく街とカターレを近づけていく。その作業から始めました。

 本当はそれに加えて、普段なかなかスタジアムに来ることができない、地元のお年寄りの方々にも歩み寄る作業をしていく必要があると考えていました。ただしそれは、かなり想定を超える作業量なので、やっている間にシーズンが終わってしまったという感じです。それでも今日の試合の反応をご覧になれば、スタンドで見ていただける方々のリアクションに、多少なりとも変化が感じられませんでしたか?

──去年の10月にも、私はカターレのホームゲームを取材しています。今日が最終節ということを差し引いても、去年と今年とではスタンドの熱量がまったく違いましたよね。

左伴 本当にメディアさんのおかげです。TVでいえばローカル4局が、試合の結果だけでなく「クラブがこんな取り組みをしている」とか「今年のカターレは面白い」みたいな取り上げ方をしてくれているんですよね。僕自身もSNSでいろいろ発信していますが、やっぱりローカル局や地元紙が取り上げてくれることでの浸透度にはかないません。そこは、これまで僕が社長をやってきたクラブとの一番の違いかもしれないですね。

──私も伝える側の人間だからわかるのですが、ただクラブ側から「取材に来てください」といっても、ローカル4局がそろって取り上げてくれるわけではないですよね? そこにはきちんとした戦略があったと思うのですが。

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