宇都宮徹壱ウェブマガジン

避けてきた「選手もの」にあえてトライした理由 構成者が語る松本光平著『前だけを見る力』解説

 昨年の秋から構成でどっぷり関わっていた、松本光平著『前だけを見る力 失明危機に陥った僕が世界一に挑む理由』が、ECサイト「徹壱堂」で予約販売を開始した(参照)。書籍を執筆(今回は構成)して、入稿後は入念にゲラチェックを繰り返し、書籍が完成したら徹壱堂で予約販売を開始する。最近は、そこまでがルーティーン。今やブックライターにとって「手売り」は必須となっている。

 さて、本書の著者である松本光平については、当WMでもたびたび登場しているので、ご存じの方も多いことだろう。その経歴を駆け足で振り返ると、以下のとおりである。

 松本光平は1989年生まれで大阪市出身。セレッソ大阪U-15、ガンバ大阪ユースを経て、高校卒業後に渡英。なかなか所属チームが見つからない状況が続いたが、2014年にニュージーランドのオークランド・シティFCでプロとしてのキャリアをスタートさせる。そして5年後の2019年には、ヤンゲン・スポール(ニューカレドニア)に期限付き移籍して、FIFAクラブワールドカップへの出場も果たしている。

 もっとも松本光平が注目されたのは、この大会の翌年にトレーニング中の事故で両目を負傷し、治療とリハビリのためにニュージーランドから帰国して以降のことである(この時のクラウドファンディングをご記憶の方もいることだろう)。手術の結果、右目はほぼ失明状態、左目も「ぼんやり見える程度」となってしまったが、奇跡的に眼球摘出を免れることはできた。

 こちらの動画をご覧いただきたい。撮影されたのは昨年の2月(場所は大阪のJ-Green堺)。失明の危機に瀕する重症を負ってから9カ月、歩行トレーニングを開始してから半年ちょっとで、松本光平は元Jリーガーを相手に遜色ないプレーを見せている(ちなみに彼のポジションは右サイドバックだ)。

 アスリートにとっての視覚は、五感の中で最も重要といっても過言ではない。松本光平の場合、全盲ではないものの「弱視」というハンディを負いながら、プロフットボーラーとしての復帰、そして二度目のクラブワールドカップ出場を目指すこととなる。

 ここまでお読みになれば。多くの方は「逆境に陥ったアスリートが艱難辛苦の末に復活する物語」をイメージされるかもしれない。確かに、そういう側面もある。が、それは全体の6分の1程度。本書が読者に提供するのは、超人的なアスリートの成功譚ではなく、もっと一般読者に寄り添った「気づき」である。これまで柄でもないと思っていた「選手もの」に、今回あえてトライした理由も、まさにそこにあった。

(残り 1403文字/全文: 2521文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ