宇都宮徹壱ウェブマガジン

スタジアムが声援で包まれる日を迎えるために 各界識者に聞く声出し応援の条件<産総研篇>

 野々村芳和Jリーグチェアマンが就任して、早くも1カ月が過ぎた。今月後半のWMでは、新チェアマンが直近で取り組むであろう課題について、当事者目線で考察している。先週の「シーズン移行」に続いて、今週のテーマは「声出し応援」の解禁。奇しくも先日、野々村チェアマンが「1会場から試験的に実施」という方針を明らかにしている(参照)

 この「声出し応援」に関して当WMでは、科学的アプローチと実践的アプローチという2方向で識者への取材を試みることにした。まず、科学的アプローチということで、産業技術総合研究所(以下、産総研)の保高徹生さんへのインタビューを紹介する。保高さんは、新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボでラボ長を務める科学者。産総研については、私が昨年にスポナビで寄稿したコラムをご参照いただきたい。

 産総研はJリーグと共に、スタジアムでの感染リスクの技術実証を重ねており、保高さんは産総研側で中心的な役割を果たしてきた。本稿では、生粋の科学者である保高さんのご意見をもとに、なるべくサポーターの心に響くような構成に努めた。声出し応援解禁のために、われわれに何が求められるのか? より多くのサポーターに読んでほしい内容となっている。(取材日:2022年4月4日@茨城県つくば市)

<目次>

*天皇杯決勝で聞こえたチャントの数値は「3%」

*リスク評価の計算は「わりとすぐにできる」?

*解禁できるかを判断するのはJリーグではない

天皇杯決勝で聞こえたチャントの数値は「3%」

──2020年の4カ月にわたる中断期間を経て、Jリーグは少しずつ観戦の制限を緩和してきました。当初の無観客から少しずつ観客を入れるようになり、入場者数の上限を設けながらビジター席も開放。応援についても、手拍子やタオマフや大旗など、徐々に解禁されていきました。その間、産総研さんがスタジアムでの技術実証を重ねながら、リスクを「見える化」してきたことで、スタジアムの風景も少しずつ戻ってきたように感じています。2022年は、その最終段階という理解でよろしいでしょうか?

保高 あくまで私は、研究者として外部から見ている立場ですが、そう言っても差し支えないかと思います。前チェアマンの村井満さんもおっしゃっていましたが、日常への回帰ということを考えた時、2つの大きな要素がありました。まず、スタジアムを満員にすること。そして、声を出して応援すること。この2つのステップのうち、どちらを選択するかというのは、政府やJリーグの判断だったと思います。

──政府のお墨付きがあったからこそ、去年の12月には入場者数の上限が先に撤廃されたわけですよね。満員にすることが先か、声出しを認めるのが先かというところで、Jリーグは満員を選択したということでしょうか?

保高 正確に言うと、政府が先に緩和を認めたのが満員の方でした。Jリーグとしても、声出しの応援よりも先に「まずはスタンドにお客さんが戻ってほしい」というのはあったんだと思います。その頃、さまざまなスタジアムで色んな人の話を聞きますと、声出しを解禁すると「怖がって来なくなる人がいるんじゃないか」という話もあり、読みづらい部分もあったようです。今は隨分と雰囲気は変わりましたけれど、非常にセンシティブな時期もありましたから。

──声出しというところで、最近の技術実証の結果を教えていただきたいと思います。すでにWeb上で公開されている資料(PDF)をもとに、解説していただきたいのですが、こちらはJリーグではなく昨年の天皇杯でのデータですね?

保高 そうです、昨年12月の天皇杯準決勝と決勝ですね。19日に国立競技場で行われた決勝は、入場者数が5万7785人ということで、コロナ禍以降では最も人数が多いスポーツイベントとなりました。この時、ひとつの大きなポイントとなったのが、まずは観客のマスク着用率。AIで解析した結果、ほぼ満員のスタジアムでも試合中に96.%という非常に高い確率でマスクを付けている人が多いことがわかりました。

 もうひとつの大きなポイントが、観客の応援スタイルです。拍手が54.%、チャンス等での非意図的な歓声が2.%くらいあったということです。ここでのパーセンテージは、試合時間120分の中での割合とご理解ください。この試合は延長戦で劇的なゴールが2つあったので、思わず声が出てしまったということだと思います。ちなみに北側ゴール裏では、限定的なチャントが3%ほど記録されていて、これは決勝ゴールが決まった時だったと思われます。

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