宇都宮徹壱ウェブマガジン

Jリーグ国立開催と「1万人無料招待」の狙いは何か? 空前のプロモーションが行われた背景を探る<1/2>

 国立競技場で開催される/清水エスパルスvs横浜F・マリノスに/10,000名をご招待するキャンペーンを実施!!/初めての方も、お久しぶりの方も/この機会にぜひ国立競技場でのスタジアム観戦にお越しください

https://twitter.com/J_League/status/1529014402342866944

 貴方のタイムラインに、こんな告知が流れてはいないだろうか? 7月2日のJ1リーグ第19節、清水エスパルスが横浜F・マリノスをホームに迎える試合は、AIAスタジアム日本平ではなく、東京の国立競技場に開催される。そういえばGW初日となる4月29日でも、FC東京とガンバ大阪のゲームが国立競技場で行われ、1万人の無料招待キャンペーンが行われていた。

 国立開催のJリーグ開催といえば、1990年代ではそれほど珍しいことではなかったが、東京オリパラ以降では初めて。Jリーグでもホームタウン重視の観点から、国立開催は「邪道」という雰囲気さえ漂うようになっていた。それが一転しての国立開催。しかも1万人も無料招待である。

 これまでJリーグが積み上げてきたものを、まるで否定するかのようなキャンペーンが実施されることになったのは、どのような背景や経緯があったのであろうか? こうした疑問を明らかにしたいと思い、Jリーグに取材申請したところ、このプロジェクトに関わった3人の「中の人」にお話を伺うこととなった。

 今回、取材に対応していただいたのは、マーケティング本部本部長の笹田賢吾さん(写真左下)、プロモーション部部長の勝澤健さん(同右上)、そしてマーケティング部部長の丸山慎二さん(同右下)。一見すると破天荒と思われる当プロジェクトが、実は緻密なプランニングに基づいたJリーグの戦略であったことが、今回の取材を通して理解することができた。より多くのJリーグファンに、共有したい内容であると自負する。

 最後に、当WMのような個人&ミニマムメディアに対して、丁寧に対応していただいたJリーグ広報部の皆さんには、心からの感謝を申し上げたい。数字に結びつきにくいテーマであっても、当WMとしては「サッカーファンに届けるべき情報」を積極的に発信していく所存。そんな心意気をご理解いただけたことを、何よりも嬉しく、誇らしく思う次第である。(取材日:2022年5月9日。オンラインにて実施)。

<1/2>目次

*久々のCMは「あ、Jリーグやってるね」を知ってもらうため

*「もう一度、Jリーグを見ていただくためにチャレンジしよう」

*招待券はデジタルマーケティング的には「ばら撒き」にあらず

久々のCMは「あ、Jリーグやってるね」を知ってもらうため

──今日はよろしくお願いします。本題に入る前に、皆さんのそれぞれの領域と役割について確認させてください。まず笹田さんは、マーケティング本部の本部長ということですよね?

笹田 そうです。マーケティング本部は「to C」、いわゆるコンシューマー向けの業務のすべてを担う部署になっています。その中にも部署がいろいろ分かれているのですが、勝澤はプロモーション部の部長で、マスメディアからデジタルメディアに至るまでのプロモーション全般を見ています。丸山はマーケティング部の部長で、プロモーションで獲得できたJリーグIDをスタジアム集客やマネタイズ(視聴推進・EC推進など)につなげていくことを、Jクラブと伴走しながらやっていくのが仕事です。

丸山 補足しますと、他にデジタルマーケティングの共通基盤のシステムの運用やデータの分析なども担当しています。

──ありがとうございます。それでは本題に入りたいと思います。私はこのGW中、4月29日の国立競技場でのFC東京対ガンバ大阪を皮切りに、仙台のユアスタ、大分の昭和電工、広島のEスタ、そして大阪の吹田で取材してきました。国立では4万3125人を集める一方で、Eスタは天気が良かったのに1万人に届かないなど、どこも満員御礼とはいかなかったようです。マーケティング本部としては、このGWをどのように位置づけていたのでしょうか?

笹田 われわれのプロモーション・コミュニケーションについて、リーグとクラブとの間では、もともと「5つの山を作っていこう」という考えがありました。すなわち、開幕期、春休み期、GW期、夏休み期、そして終盤期。ところがご存じのとおり、今年は開幕期と春休み期がコロナの影響で、できることが限られていたんですね。GW期については、政府による50%の入場制限がなくなりましたので、ここは踏み込んでいこうという意図がまずありました。

──なるほど、開幕期と春休み期に派手なプロモーションができなかったということで、GWを前に一気に盛り返していこうとしたわけですね?

笹田 そうですね。GWと夏休みを活用して、離れていったお客さんに戻ってきていただく、そしてこれまで獲得できていなかった新しいお客さんを呼び込む。それらに関して、この2つの期は非常に重要なポイントになります。そこはリーグとクラブ、双方で課題認識を共有しながら力を入れていこうということで設計していました。

──その設計の中に、4月29日の1万人プロジェクトがあったわけですが、これは単に「Jリーグを観に来てください」というアピールだけでなく、デジタルマーケティングとしての狙いもあったと思います。どのような目標を掲げながら、このプロジェクトを立ち上げたのでしょうか。

笹田 まさにGWのひとつの目玉として「国立競技場を活用して、引きのあるカードの試合を行う」ことを考えていました。なるべくアクセスしやすい環境で、観たくなるようなカードを持ってくれば、新規だけでなくコロナで観戦を控えていた層も呼び込めるのではないか。そこでJリーグとしても、十数年ぶりにCMを打つことになりました。TVだけでなくデジタルも含めたプロモーションを行い、試合で得られたJリーグIDをしっかりリスト化して次につなげていこうという考え方でした。

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