宇都宮徹壱ウェブマガジン

私が「共感」と「違和感」を大切にする理由 メディアの劣化を危惧する中で確認したこと

 今週は、サッカーとは関係ない話題からスタートすることにしたい。先週金曜日に発生した、安倍晋三元首相の狙撃事件。もちろん、事件そのものについては、当WMが担うべきテーマではない。が、メディアの側の人間として、きちんと言及する必要性を感じた。着地点は「こちら側」に設定しているので、そこはご安心いただきたい。

 すでにあちこちで語られていることだが、安倍元首相が死去した翌日、NHKと民放各局(テレビ東京除く)は、膨大な追悼番組を流し続けた。しかも参院選の前日に、各局が似たような代わり映えのしない情報を、である。いくら衝撃的な事件が起こったとはいえ、これはかなり異常な事態であると言わざるを得ない。加えていえば、事件翌日の大手各紙もまた、一面はまったく同じヘッドラインだった。

 今回の容疑者が、その動機に挙げた宗教団体(世界平和統一家庭連合=旧統一教会)についても、大手メディアはしばらくの間は不自然なまでに、その名を報じることはなかった。各社が同じような情報を垂れ流す一方で、本当に伝えるべき情報を明らかにしない判断も「右へ倣え」。やはり、わが国のメディアは劣化しているのだろうか?

 こんなことを書くと「天に唾する」ことになるのかもしれない。それでもメディアに関わる人間は、同時にメディアの受け手でもあるわけで、こうしたおかしな状況については、いち消費者として違和感を表明すべきだと思う。そうした手間を惜しんでいると、いずれ自分が手痛いしっぺ返しを受けることになるのではないか──。そんな危惧を最近、ずっと払拭できずにいる。

 大手どころか中小メディアでさえ記者の教育を受けたこともなく、フリーランスになって以降はずっと現場で学びながら(時に失敗しながら)この仕事を続けてきた。そんな私がジャーナリスト論を語るのは、かなりの冷や汗モノではあるのだが、さりとてメディアの現状を批判するだけではフェアではない。ここはひとつ、私自身が取材現場で心がけていることを確認しておきたいと思う。

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