宇都宮徹壱ウェブマガジン

貴方の知らないルーマニア・サッカーの沼 瀬戸貴幸×三野草太×板東隼平<1/2>

 皆さま、暑中お見舞い申し上げます。

 今週はいつもと趣向を変えて、シーズンが始まったばかりの欧州サッカーに目を向けることにしたい。といっても、そこはマイナー&ニッチ路線を追求する宇都宮徹壱WM。今回は東ヨーロッパの中でも、最近は特に秘境めいた印象のある、ルーマニアのサッカーがテーマである。

 ルーマニアといえば昨年7月、ACSプログレス・エゼリシュという現地の3部クラブのオーナーとなった日本人、板東隼平さんにご登場いただいている(参照)。その板東さんから「今季のルーマニア1部は日本人対決が実現するので、ぜひ取り上げてください!」とのリクエストをいただいた。これは取り上げないわけにはいかないだろう。

 板東さんが言う「日本人対決」とは、瀬戸貴幸選手(ペトロルル・プロイェシュティ)と三野草太選手(FCヘルマンシュタット)。両クラブとも今季、めでたく2部から1部に昇格している。瀬戸選手は愛知県出身の36歳、三野選手は滋賀県出身の27歳。時期こそ異なるのもの、ふたりとも日本でのプロ経験がないままヨーロッパに渡り、ついに両者揃ってルーマニアのトップリーグで相対することとなったのである(ちなみに瀬戸選手は2018年、ヴァンフォーレ甲府で半年だけプレーしている)。

 そこで今週は、瀬戸&三野の両選手に板東さんも加わっていただき、知っているようで知られていない、ルーマニア・サッカーの沼について語り合おうと思った次第。皆さんのお話を聞いていて、あらためて思ったのが「日本人は意外と順応性があるんだな」ということである。具体的に、どういうことか? さっそくお三方の言葉に耳を傾けてみたい。(取材日:2022年7月21日。オンラインにて収録・トップ写真提供:三野草太選手)

<1/2>目次

*ついに実現したルーマニア1部での日本人対決

*「タカはあれだけルーマニア語が喋れるのに」

*ボールを奪う時は「相手を殺しに行く」覚悟で

ついに実現したルーマニア1部での日本人対決

──今日はルーマニアで選手として、そしてクラブ経営者として、現地で活躍されている3人の日本人の方々にお集まりいただきました。最近の日本人選手のヨーロッパへの入り口は、まずベルギーやオランダやポルトガルが思い浮かびます。ディープな海外サッカーファンでも、ルーマニアの状況に知悉している人はそんなに多くはないでしょう。そんなルーマニアサッカーの現在地について、今日は当事者目線で語っていただこうと思います。まずは板東さんから、近況を絡めながらの自己紹介をお願いします。

板東 ルーマニア3部リーグ所属、ACSプログレス・エゼリシュのオーナー、板東隼平です。今季、初めてのシーズンを戦って、レギュラーシーズンは7位に終わりました。そのままプレーオフに巻き込まれたんですけど、財政面での健全性が評価されて、何とか残留を決めることができました。

──ルーマニアのハーフウェイカテゴリーも、まあまあ厳しい世界なんですね。成績面では大変だったようですが、クラブ経営に関してはいかがでしょうか?

板東 ある程度は予想どおりだったと言えます。人口1400人の本当に小さな田舎町のクラブですからね。当地の物価も高くないので、選手の人件費はかなり安く抑えることができています。これが大都会、たとえばブカレストやティミショアラなんかのクラブだと、事情はかなり違ってきます。外国人が経営していると聞きつけて、いかつい人たちがやって来て、あるいは潰されていたかもしれないですね。

──東欧によくいるサッカーマフィアのことですね?

板東 そうです(苦笑)。ですので、買ったクラブは正解だったと思います。

──続いて瀬戸さん、お願いします。

瀬戸 ペトロルル・プロイェシュティの瀬戸貴幸です。ルーマニアに来たのは2007年で、トルコや日本やラトビアでもプレー経験があるのですが、キャリアのほとんどはこっちです。今年で36歳なんですけれど、この年齢で欧州のトップリーグでプレーできることを個人的にうれしく思いますし、まだまだ頑張れればと思っています。

板東 実は瀬戸さんは、ルーマニアでプレーする外国籍選手で、最多出場記録が確実視されています。ご自身ではアピールされないので、僕から補足させていただきました(笑)。

──それはすごい! 私が初めてルーマニアで瀬戸さんにお会いしたのが、東日本大震災直後の2011年4月でしたから、当時25歳でしたよね。それから11年間、紆余曲折がありながらも、こうしてルーマニアのトップリーグで活躍し続けているのは、私としてもうれしいです。つづいて三野草太さん、これまでのキャリアを教えてください。

三野 FCヘルマンシュタット所属の三野草太、現在27歳です。出身は滋賀で、岡山の作陽高校卒業後、関西リーグのレイジェンド滋賀で3年ほどプレーしてから、マルタに渡って2クラブとプロ契約して、2018年にルーマニアに渡りました。最初に所属したのが、2部のメタログロブス・ブカレスト。昨年、当時2部だったヘルマンシュタットに移籍して、今季から1部でプレーすることになりました。

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