宇都宮徹壱ウェブマガジン

なぜ長崎のゴール裏は殺伐モードとならなかったのか? 被爆地クラブが平和祈念マッチを開催する意義を考える

 日記にも書いたとおり、先週は5日かけて福岡と長崎を旅しながら取材を重ねてきた。このうちディープな福岡の旅については、木曜と金曜にフォトギャラリー形式で振り返ることとして、本稿では久々に訪れた長崎で感じたことについて語りたい。

 V・ファーレン長崎のホームゲームが行われる、トランスコスモススタジアム長崎を訪れたのは2017年8月6日以来、実に5年ぶりのこと(参照)。8月13日に行われたJ2リーグ第31節のFC琉球戦は、偶然にも前回同様、平和祈念マッチとなった。

 試合そのものは、なんとも奇妙な展開であった。この時点で長崎は5位、琉球は22位。長崎有利との下馬評どおり、23分に澤田崇、45分にクリスティアーノのゴールで、ホームの長崎が2点リードで前半を折り返す。ところが楽観ムードに包まれた後半、長崎の守備が突然ほころびを見せ始め、人見拓哉の2ゴール(58分と68分)で、あれよあれよと同点に追いつかれてしまう。

 さらに89分には、先月にFCプリシュティナ(コソボ)から移籍してきたばかりのガーナ人、サダム・スレイの3試合連続ゴールで逆転。長崎はアディショナルタイムにPKを獲得し、植中朝日がキッカーを志願するも、琉球GKダニー・カルバハルにキャッチされて終了のホイッスルが鳴る。ホームの長崎サポーターにとっては、何とも承服し難い試合展開。それでも試合後、選手に対するブーイングや野次は一切なかった。

 試合後の帰り道、ゴール裏が殺伐モードとならなかった理由について、あれこれ考えてみた。声出し応援が禁じられていたからだろうか? 否、声を出さずとも不満を表明する手段はあったはずだ。もしかしたら、この日が平和祈念マッチだったことも、影響していたのではないか──

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