「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

【無料記事】【インタビュー】栃木SCアカデミー 「真の栃木県のチームは必ず作れる」。ミスター栃木SCと呼ばれた情熱の男、只木章広育成部長が掲げる哲学により躍進する栃木SCアカデミーの現在地。

 栃木SCが好きだから

 

――只木さんは今年トップチームの練習見学に来られることがありますが(週一回程度)、それの意味合いは?

「栃木愛、栃木SC愛を持つということは、そのトップチームの選手を好きでなければ無理じゃないですか。そのためには選手を知らなければいけない。ゲームではなくて、僕ら指導者が見ることのできるのは練習です。どういう風に練習に取り組んでいて、どういう気持ちでやっていて、どういう顔つきでやっているのか。練習には試合に出場していない選手もいます。そしてコーチ、監督が何を求めていて、その結果がどういうふうに表現されているのか。それを知っていなければいけない」

――僕は日々トップの取材をしているのですが、今でこそ選手同士の繋がりが出てきているように感じるのですが、最初の頃はうまくいきませんでした。

「選手たちが段々と強固になってきているのは僕も感じます。繋がりがでてきている。練習への意識を選手なりに持ってやっているんじゃないかなと思います」

――ジュニアユースも関東の2部に上がったばかりですが、首位を争うなど頑張っていますし、ユースはクラブユース選手権の全国大会行きを決めています。只木さんが考える強いチームに必要なものはなんでしょうか?

「それは単純ですけれど、戦えることがすべてです。それは絶対に外せない。やはり走れて、局面で身体を張れる。ゴール前で身体を投げ出せて、ゴール前に飛び込んで、そこで触れて、コース変えられて、そういうのがない限りは強いとは絶対に言わないですよね」

――それが最低限あって、その上に何かが積み重なっていく。

「そうですね。それがあって、戦術のカラーがあり、相手の崩しがある。いろんな要素があると思いますけれど、とにかくそれがない限りはダメ。僕もU-13のチームを見ていますが、花輪監督が率いるU-15のチームが結果を出せているのは、それがあるからだろうなと思います」

――その戦える選手になるためには?

「指導者の腕以外に方法はないです。監督がそれをできれば絶対に選手はやれます。グラウンドの内外のすべてでやれるようにする。選手ができないのであれば、監督がとことん言ってやらせるしかないです。言っただけじゃダメです。やらせない限りダメです」

――選手自らが自主的にやる、というのは難しいですか? 子どもの育成では一般論として、自分で動く、自分で考えてプレーできる選手が望ましいと言われます。

「監督の手腕によって戦える集団にさえなってしまえば、選手はやるのが当たり前、戦うのが当たり前になります。口で言うのではなく、走れないのであれば、走れるように改善させる。そのための手立てを全部注ぎ込むべきでしょうね。そういう環境ができれば、あとは選手たちが自分でやるんですよ。仲間同士でやるようになる。筋トレ、ランニング、それから食事、それらを互いに意識しながら切磋琢磨してできるようになるかもしれない」

――そういう環境になるまでは、最初は指導者が持っていく。

「それ以外にあり得ないです」

――ジュニアユースやユースは今そうなっているわけですね。

「そうですね。U-15の関東リーグを戦っている選手は、そういう環境が当たり前だと思っているから、ちょっとやそっとのことでは怯まないと思います。花輪監督の言うこともかなり厳しいです。それに試合に負けた次の日はオフにしないとか。そのくらいのことも必要です。荒療治としてやらなければダメだと思います。負けた次の日にゆっくりリカバリーして、ゆっくり一日休んで、それでまた同じように練習に入っても強くならないですよ。変わらない。なぜならスタンダードが低いから。じゃあ、アトレチコ・マドリーはどうだって言ったら、絶対に違うと思うんです」

――アトレティコ、好きですか?

「アトレティコはサッカーのスタイル(主に堅守速攻)があまり好きではないんですけどね(笑)。でも、あの戦うスピリットは素晴らしい。あの質の高い選手の集団がペナルティエリアの中に10人も入って守るなんて、プライドも何もない。きれい事なんてない。でも、あれが彼らのスタンダードだから、全然苦になっていない。勝つためであって、自分たちのスタイルだと思っているから当然やるわけです」

――監督のシメオネがそうさせている。

「シメオネじゃなきゃ、できないじゃないですか。そういうことなんだと思うんです」

――只木さんは(指導者資格最上位の)S級を取得することについてはどう考えているんですか?

「僕もこういう仕事をしている以上、持っていたほうがいいのでチャンスがあれば取りたいと思っていますよ」

――只木さんは今、このクラブに入って育成にどっぷりと浸かって充実していますか?

「そうですね。最高です」

――今は、かつて栃木SCで活躍されていた方々で指導者になられた方もいますし、只木さんの盟友である堀田さん(利明、ヴェルフェたかはら那須監督)も指導者として結果を出されています。

「そうですね。みんな、何だかんだ気にしてくれて、会えば話をしてくれるし、息子をサッカースクールに入れてくれたりしています。ただ、栃木SCOBも含めて、もうちょっと手伝ってくれる仲間は絶対にいるはずだから、そういう人たちに『僕たちはこういうふうにやっているんだよ。だから助けてね。協力してよ』と言えるものをもう少し持ちたいですね」

――現状のユースやジュニアユースの結果、あとはやっているサッカーも含めて、すごいな、というのが正直な感想です。

「来て、見てもらえさえすれば、それで心を動かせる部分は絶対にあると思うんですよ。湘南ベルマーレさんとU-15の関東リーグで32のゲームがあるんですが、本当にすごいゲームで、終わった瞬間にみんなぶっ倒れるみたいな()。栃木が勝ったんですけれど、見ていても素晴らしいゲームでしたよ」

――アカデミーの哲学やコンセプトをしっかりと示せた試合ということですね。それを統括する立場に只木さんがいる。その影響力や周りとの繋がりを考えると育成部長に只木さんがいる現状はベストなんじゃないでしょうか。

「アカデミーのスタッフも、そういうふうに言ってくれるので、僕の力が及ばないかもしれないけれどやるしかないです。僕は、栃木SCが好きですから」

(了)

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