「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

【レビュー】栃木SC J3第34節アスルクラロ沼津戦 RETURN TO J2ーー。栃木愛が結実し、J3ロードここに完結。  

2017明治安田生命J3リーグ第34節

2017年12月3日13時キックオフ 愛鷹広域公園多目的競技場
入場者数 8,649人
天候 晴れ、弱風
気温 14.1
湿度 41%
ピッチ 全面良芝、乾燥

アスルクラロ沼津 1-1 栃木SC
(前半1-0、後半0-1)
得点者:7分 薗田卓馬(沼津)、77分 ネイツ・ペチュニク(栃木)

<スターティングメンバー>
GK 15 ジョニー レオーニ
DF 26 夛田 凌輔
DF 4 広瀬 健太
DF 22 メンデス
DF 7 菅 和範
MF 21 牛之濵 拓
MF 11 岡﨑 建哉
MF 24 和田 達也
MF 8 廣瀬 浩二
FW 25 ネイツ ペチュニク
FW 14 西谷 和希
控え
GK 23 川田 修平
DF 5 尾本 敬
DF 29 川田 拳登
MF 2 西澤 代志也
MF 6 古波津 辰希
FW 20 藤沼 拓夢
FW 19 服部 康平

横山雄次監督

55分 廣瀬→川田拳
69分 牛之濱→服部
87分 和田→古波津

アウェイ沼津の愛鷹に栃木愛が溢れた日

 

このチームを取材して13年目になるが、あんなアウェイの光景は初めてだった。

会場となった愛鷹広域公園多目的競技場のメインスタンド半分とゴール裏の芝生席がぎっしりと栃木サポーターで埋まっている。栃木からバスは6台、愛鷹の駐車場はキックオフ3時間前でも宇都宮ナンバーの車が溢れている。その数はクラブが把握しているだけで1600ほど。しかしこの日の公式入場者数8649人からすれば、おそらくその数は目算すると2500人以上。

「なんだよこれ、すごいな……栃木のホームみたい」

アスルクラロ沼津のレプリカを来た青年がフードコートに溢れる栃木の黄色の多さに感嘆の声を漏らしている。彼にとってもあんなホームの光景は初めてだったに違いない。

 

僕が肉眼で確認した限り、スタンド席には栃木SC元監督&副社長の松本育夫さん、栃木県矢板市出身で現Jリーグ副チェアマンの原博実さん、初代栃木SC社長の新井賢太郎さんといった栃木サッカー界の重鎮たちの姿があった。金子翔太(現清水、栃木出身)、大石治寿(現山口)といった元栃木SC戦士たちの姿もあった。「今日は試合がないアカデミーの子たちもゴール裏で応援するために来ていますよ」と満面の笑みで教えてくれたのは栃木SCユース監督の浜嶋淳郎さん。ゴール裏には来季のトップチーム入りが内定している栃木SCユースの3選手、早乙女達海、山本廉、本庄竜大といった選手たちをはじめ約60人がトップチームの選手たちの後押しに駆け付けていた。

「沼津は近いです! よろしくお願いします!」

一週間前のホーム最終節のセレモニーでグリスタの観衆に呼びかけた張本人、栃木SCの橋本大輔社長がその光景を見つめながら「舞台は整ったと思うので、あとはやるだけです」といった。笑顔だったが少しぎこちない。緊張している様子が伝わってきた。去年の優勝争いのときからずっとこんな感じだ。あのぎこちない笑顔を見る度に僕は心のなかで、この人を早く楽にさせてあげたい、と思う。

「やるだけのことはやったんで」

愛鷹にあの光景を作り出せたのはクラブの力、牽引する橋本社長の力に他なるまい。2015年の暮れ、クラブがJ3降格という危機的状況を突きつけられたとき、火中の栗を拾ったのは橋本社長だった。

「クラブがJ3に降格して、もう0100にしようと思っていたんです。僕が中途半端に取締役に関わっていたから降格したんだ。そんなふうに気持ちを切り替えて、覚悟を決めたんです」「僕が社長に就任することを応援してくれる人もいれば、親身だからこそ反対して下さるかたもいました。本当に大変な仕事だと思うので。ただ、僕自身は社長になることを決意しました。J3からJ2に昇格させること、それは僕が社長の立場として、さらに周りの人が協力してくれるのならば何とかなるかもしれないと」

何とかなったのだ。チームを応援しよう、クラブを応援しようという栃木の協力者たちが愛鷹のスタジアムに溢れていた。「社長、ありがとう!」。愛鷹のメインスタンドから橋本社長にそんな声が投げかけられる。橋本社長が何度も何度も頭を下げて笑顔を返している。橋本社長はJ3降格が決まった2年前、「このクラブはもっと愛されないといけない」と悔しさを押し殺すように言った。あれから、クラブが愛されるためにとった行動は、自らが愛することだった。クラブがまず、サポーターを、地域を、そしてチームを愛すること。その愛情が、思いが、J3降格からの2年の間に徐々に浸透し始めている。愛鷹が黄色に溢れた光景がそれを物語っていた。

「あの映像をみて、やるしかないなって。奮い立ちましたよ」

菅和範が試合前の様子を明かしてくれた。この日の試合前、チームはクラブが用意したある映像を全員で見たという。それは選手一人ひとりの両親や親族からのメッセージの数々。ジョニー・レオーニはそれを見て涙を流していた。仙石廉の兄が本人にそっくり過ぎて「なんで廉が映像に出てくるんだよ!」とみんなから総ツッコミが入った。いい雰囲気だった。クラブが、チームへの愛を示し、選手たちがその愛をしっかりと受け取った。そうして決戦の火ぶたは切って落とされた。

 

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