「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

【プレビュー】栃木SC J2第37節大宮アルディージャ戦 ”分岐点”となったNACK5で大宮にリベンジし、J2残留確定を。

前節はホームで横浜FCにスコアレスドロー。攻め合い守り合いの激しい試合となった。栃木SCは12勝9分15敗で16位。今節の相手は5位大宮アルディージャ。前回対戦は5月の第16節で対峙し、ペナルティキックを献上して0-1で敗れた。前回対戦、そして、3年ぶりとなる大宮のアウェイゲームでリベンジなるか。今節はNACK5スタジアムで16時キックオフ。

状態が上がる西谷優希。今週の練習では結果をつかみ取りそうな気配を漂わせていた。

あの2015年のNACK5の光景は鮮烈な記憶のまま

 

忘れえぬ戦いがある。

201588日、J228節。栃木SCはこのシーズン、阪倉裕二監督が指揮を執って2シーズン目だったが、チームは序盤で勝点を積み上げられず、24節群馬戦の直後に指揮官は辞任した。代わりに指揮を執ったのは、倉田安治。442ゾーンディフェンスを駆使する新指揮官は就任間もなくチームに守備メソッドを叩き込み機能させていた。NACK5スタジアムで相まみえた大宮との試合は、新指揮官が就任して4試合目のことだった。相手の大宮は7連勝中で2位磐田を勝点14差もつけてJ2首位を独走していた。一方、20位に沈んでいた栃木からすれば当時の大宮という存在は大きすぎた。絶体絶命の状況に思われた。NACK5中の大宮サポーターは誰もが勝利を確信していただろう。

だが、蓋を開けてみれば、試合は誰もが固唾を飲んで見守る緊迫の展開にもつれていく。栃木のソリッドな442ゾーンディフェンスがはまり、大宮のボール回しをサイドに追い込んで絡め取ると、鋭いカウンターから大宮ゴールに迫った。前半だけで決定的なシーンが二度ほど。しかし大宮のGK加藤順大の好セーブにも遭い、ゴールをこじ開けることができない。「栃木、つええなあ……」。次第に大宮サポーターの顔に焦りの色が見え始めていた。

それでも地力に勝ったのは大宮だった。終盤にかけて徐々にギアチェンジし猛攻を仕掛けると、栃木は押し込まれた。それでも必死の抵抗で何度も水際守備で弾き返した。だが、それは試合終了間際の87分のことだった。相手FWムルジャがペナルティエリア内でファウルを誘うように倒れ、強引にペナルティキックを獲得。これをエース家長昭博が冷静に流し込んだ。これがこの試合の決勝ゴールとなった。

 

倉田体制となり1勝11敗で迎えた4試合目だった。この試合で栃木が7連勝中の大宮を下すアップセットを起こしていれば、その後の栃木は自信を手にし、違った命運を手にしていたかもしれない。あのときの試合後の、オレンジたちの安堵に満ちた歓喜の顔がいまだに脳裏に鮮烈に焼き付いている。

 

今のチームスタッフや大半の選手たちにとっては関係のない話だ。だが、その後栃木がJ3降格を経験し、さ迷い、苦しみ、しかし這い上がったストーリーの起点はこの辺りから始まっていたように思える。あの試合は、当時の栃木の命運を決めた分岐点だった。そして、3年ぶりに戻ってきたNACK5スタジアムの大宮戦である。アウェイゴール裏を黄色に染め上げるだろう栃木サポーターは当時に思いを巡らし、ピッチを見下ろし、声を枯らして選手たちの背中を押す。幸い、今の栃木SCの選手たちは強者に対して臆しないタフさを身に着けている。残留争いに巻き込まれ、己を半信半疑でしか信じれなかった当時とは違う。ならば、今こそリベンジを――。今節は、あのときの悔しさをぶつけ、新たな一歩を踏み出すための大事な一試合である。

(残り 1313文字/全文: 2826文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ