「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

なぜここまでの低迷を招いたのか?【2019シーズンレビュー① 総論】(19.12.6)

「もっとお客さんを沸かせるサッカーを」

という命題へのチャレンジ

 

シーズン終盤の土壇場でチームは一つにまとまり、最後の4試合は強豪を次々となぎ倒して3勝1分、最終節で劇的な逆転残留を掴み取った。フィナーレに向けてチームが急速に一つにまとまっていく様は見事だった。

だが、これを美談で済ますわけにはいかない。チームは今季開幕から低迷を極めた。シーズンの4分の3に当たる30試合を過ぎても浮上の兆しが見えず、長らくJ3降格圏を喘いだ。なぜこれほどまでに苦しんだのか。

今季の低迷ぶりを理解するには、まず”一段目”を念頭に置く必要がある。話は昨季まで遡る。

「もっとお客さんを沸かせるサッカーを」

それが昨オフのクラブが掲げた命題だった。横山雄次監督(現・長野パルセイロ監督)に率いられたチームは「走る」「闘う」といった方向性をベースに闘争集団と化し、シーズン中に4連勝を飾るなどして17位で終えた。横山栃木には最低限あるべきハードワークが浸透していたが、一方で守備比重の高い戦いを展開したことで、シーズン中からその先のレベルアップした姿に関心が高まっていた。

もっとざっくりとした言い方をすれば、守備で我慢する時間がまだまだ長いので、もっとアグレッシブな守備をして、もっと攻撃に行く時間を増やしたい――という未知なる世界への暗黙の期待があった。

昨季のサッカーをベースに、今季はワンランク上のチーム作りを目指す。それが「もっとお客さんを沸かせるサッカーを」という命題に繋がったという背景がある。その命題に取り掛かってもらうべく、今季招聘したのが田坂和昭監督だった。

クラブの命題を受けた新指揮官は、昨年12月、新任会見で以下のように宣言している。

「全員が攻守において走ること。それは栃木でもやりたい」

「守備があったうえで攻撃でアクセントを加えることができれば面白いチームに変わる」

1月の新体制発表会見ではこう話している。

「今のサッカーはスピードのあるカウンターがないとなかなか得点は獲れません。その中で我々もまず速い攻撃を第一に目指します。かといってそれですべて得点が取れるかといえばそうでもないので、遅攻になったときにどういうサッカーをするのか。それを今年の我々のカラーにしたいなと。これはトレーニング初日から色々な方法、オプションを共有しながらやっていきたいです。それは選手の特徴があるので、どういう方法がいいのか、開幕まで6週間あるので、それまでじっくりと選手と話し合いながら、またスタッフと共有しながら作り上げていきたいです。本当にサッカーは日々変わっています。それも踏まえて、栃木SCの今までの伝統、プラス、新しい部分にチャレンジするシーズンにしたいです」

曰く、攻撃はまず速攻を第一とする。それが無理な場合には、自分たちでボールを動かしながら意図的な攻撃を仕掛ける――。端的に言えば、指揮官の言いたい趣旨はそのようなものだった。昨季までの栃木の良さを活かしつつ、さらにクラブが掲げた命題にも沿おうとする、いわば身の丈にあったプランと言えた。

だが、いざ今季が開幕してみると、指揮官の栃木でのチーム作りは思うように進まなかった。

大前提として、昨季を支えた3人のCBが根こそぎ強奪されてしまい、今季の最終ラインは一から作り直さねばならず、そもそも苦しい事情はあった。さらに、指揮官が選んだ開幕当初の最終ラインを構成するメンバーたちには昨季のような高さや強さが不足していた。

3CBとして並んだのは左から温井駿斗、藤原広太朗、森下怜哉。遅攻の精度向上、つまり、速攻が難しい場合に自分たちで意図的にボールを動かしながら攻撃を仕掛ける――を実行できると思われる”足下のある”選手起用が優先された節があった。

だが、2節水戸戦(●0-3)だった。相手に「走る」「闘う」のベクトルで根負けし、集中力やプレーの強度を欠いた失点を繰り返して宿敵に大敗した。試合後にキャプテンの藤原広太朗が「責任や自覚を持ってプレーしないと今後厳しいことになってくる。しっかりと根本的なことから修正します。もう少しチームが闘えるように意識を植え付けたいと思います」といい、闘争心が欠けていた仲間への憤りを顕にした。選手たちに闘う意志がないわけではなかった。だが、ピッチに立った選手たちは明らかに闘えていなかった。昨季のベースだった「走る」「闘う」といったハードワークの色が希薄になったことが、このときすでに見えていた。

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