「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

【無料再掲載】矢野貴章「去年の最終盤の栃木は強かったし、ああいう力が出せるんです。今年はあの力を開幕から出せるようにしたい」【開幕直前ロングインタビュー】(20.3.13)

▼昨季の最終盤の栃木は強かった

――栃木に加入する決断というのは、去年の終盤戦で栃木と対戦して、前へ速いサッカー、アグレッシブな印象を持った、と話されていましたが、それが決定的な理由になったのですか?

「僕自身、自分がやるサッカーのスタイルへの拘りはあまりないですけど、山口強化部長に声をかけていただいたときに、僕をすごく必要としてくれているのを感じました。熱意を感じたんです。選手である以上、自分を必要としてくれている場所でプレーすることは幸せですし、そういう人たちのために頑張りたいと思えるものです。だから、そこですね。熱意に打たれて栃木でやりたいと思いました」

――矢野選手はかつて大きなクラブに在籍するシーズンもありました。栃木に移籍してきた今年はキャリアの中でどういう位置づけになりますか?

「また新しいチャレンジに挑む。それでしかないです。それと、去年の最終盤の栃木は強かったし、ああいう力が出せるわけです。だから今年はあの力を開幕から出せるようにしたい。ここに来て改めて感じたのは、すごくいい選手もたくさんいるということ。もっと栃木SCを有名にしたいし、応援してくれる人たちを一人でも多く増やしたいと思っています。そのためには僕らが、応援してください、と口で言うだけではなく、ピッチ上で結果を出すことだと思っています。その意味で、すごくやりがいを感じていますね」

――去年の最終盤、新潟の選手として対戦したあのときの栃木の強さ、あの時の栃木にあったものをどう感じたのでしょうか。

「あのときはボールへ食らいつく力、みんなでボールを奪って、そしてゴールを奪うんだ、という強い気迫を感じたし、あれだけ激しいプレッシャーを感じれば相手はプレーしづらいものです。それはもちろん、絶対に負けは許されないとか、負ければ降格するという危機感があって、ああいうプレーを出させたのだと思いますが、それはもともと持っている力だと僕は思っているんです。それを今年はいい形で最初から出していって、去年のような苦しいシーズンにならないようにしたいと思っています」

――持っている力を最初から出すにはどうすれば? 危機感を最初から持つとか?

「もっとみんなが向上心を持ってやれたらいいと思いますけどね」

――日々向上心を持つ。

「もっとうまくなりたいとか、今のカテゴリーはJ2なので、J1でプレーしたいとか、海外のリーグでプレーしたいとか。若い選手はもっと貪欲になって、どんどん自分をアピールしていく。栃木は毎年、試合に出ていた選手たちの半分くらいが他チームに抜かれてしまうと聞いていますが、つまり、試合に出ていれば新しい道が広がっていくということです。その意味でも試合に出て、現状に満足しないでやってほしい。もちろん自分も含めて、常に向上する気持ちをもってやらないといけないと思っています」

――矢野選手も若い頃は代表とか海外とか目標があって、それを叶えてきたわけですからね。

「そうですね」

――ちなみに、ワールドカップに出場した経験は今にどう繋がっていますか?

「世界との差をすごく感じたし、このままではダメだとすごく感じた出来事でした。それによって新しい場所へ、海外へチャレンジしないといけないという気持ちにさせられたし、その後、今に至るまでの考え方が変わったと思います」

――当時、足りないと痛感したものは?

「圧倒的に経験、闘っているレベルが違うなと。Jリーグで試合をこなしているのではダメだと。ワールドカップに出てくる外国人選手たちが日々闘っている環境のレベルが全然違うと感じました。その差は当時の環境のままでは絶対に埋まらない、このままじゃダメだという危機感しかなかったです」

――その後ドイツに行かれています。

「僕の場合、ドイツでは結果を残せなかったですけど、そこでの経験は大きいです。自分に足りないものが見えたし、あの経験もすべて無駄ではなかったと思うんです。サッカーという意味では結果が残っていないので失敗ですが、自分のサッカー人生、ひいては自分の人生という視点で考えると、非常にいい経験ができたと思っています」

――ちなみにお聞きしますが、座右の銘は?

「すべては経験、ということですね。無駄なことは何もない。色々とチャレンジすること、そして経験すること。いま目の前のことがうまくいってなくとも、長い目で見たら非常にいい経験だったと思えるときが来る、あるいは、その経験が活きるときが来る。今後もチャレンジする人生を歩みたいと思っています」

――今の若い選手たちの気持ちの強さと、矢野選手の若かりし頃の気持ちの強さと、比べてどうでしょう。

「当時の自分がどれだけの気持ちだったのか推し量るのは難しいですけど、常にうまくなりたいと思っていたし、焦っていたし、誰にも負けたくないという気持ちの強さだけは間違いなくあったと言えます。今の若い選手たちもそういう気持ちは持っていると思いますが、それを周りで見ている人たちが感じるくらい熱いものとして表に出してほしいんです。そういう気持ちの強さが、周りで見ている人たちを惹きつけます。この栃木においても、みんながそうあってほしいと思っています」

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