「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

プレッシャーに打ち克った漢たちによる、勇敢かつアグレッシブな千金ベストファイト。【J2第40節 ツエーゲン金沢戦 レビュー】(21.11.22)

2021明治安田生命J2リーグ第40節

2021年11月21日14時キックオフ カンセキスタジアムとちぎ

入場者数 4,038人

栃木SC 1-0 ツエーゲン金沢

(前半1-0、後半0-0)

得点者:35分 小野寺健也(栃木)

天候 曇り
気温 16℃
湿度 59
ピッチ 良

<スターティングメンバー>

GK 50 オビ パウエル オビンナ
DF 22 小野寺 健也
DF 5 柳 育崇
DF 36 乾 大知
MF 33 黒﨑 隼人
MF 25 佐藤 祥
MF 10 森 俊貴
MF 49 溝渕 雄志
FW 17 山本 廉
FW 29 矢野 貴章
FW 11 ジュニーニョ
控えメンバー
GK 1 川田 修平
DF 20 三國 ケネディエブス
MF 41 松本 凪生
FW 19 大島 康樹
FW 31 豊田 陽平
FW 32 畑 潤基
FW 34 有馬 幸太郎

77分 山本→大島
77分 ジュニーニョ→三國
84分 森→畑
90+3分 溝渕→有馬

 

▼小野寺がスタメン起用に結果で応える

90分間、全員で連動してボールに向かっていくアグレッシブさが溢れていた。

土壇場の大一番で、それをやり遂げ、勝ち切ったことに大きな価値がある。

「準備の段階から今まで以上に熱があった。そうやって勝てたことは選手たちの自信になると思う」(田坂監督)

大きな重圧が掛かり、思い通りにいかない試合を重ねてきた。だが、自分たちで殻を破った。ここに来て、ついに栃木らしさが全開だった。

先週のトレーニングの準備段階からアグレッシブに前から奪いに行くのだと察した。紅白戦のメンバー構成も矢野、ジュニーニョ、森、山本と並んだ。田坂監督が事前取材でこう答えている。

「長崎戦の後半は栃木らしさが出ていた。昨年のメンバーが中心だったが、前から奪いに行って、掻いくぐられても戻す機動力が出ていた」「自分たちが今までやってきたことは何なのか、どういうトレーニングをやってきてどういうところを強化してやってきたのか、それを次の金沢戦で出させたい」

今のチームに付着し、滲み出るものを頼りに下した決断だった。

そして、紅白戦のボランチには小野寺が入っていた。

西谷が出場停止となった今節。ハイプレスを仕掛けようとする戦いに、トレーニングマッチでもボランチで長い時間プレーしたことがない小野寺を起用するのはリスキーではないか――懸念はあった。

前掛かりになったときに狙われるサイドバックの背後のスペースケアは基本的にボランチが担うが、果たして小野寺が卒なくできるのか、と。

だが、問われた指揮官は間髪なく話した。

「(小野寺)健也はCBとしてボランチの動きを見てきている。そんなに心配はしていない」

金沢が分析どおりに来るのならば何も問題はない、との算段があった。

「秋田と金沢の試合を見たときに空中戦とサイドの攻防のやり合いになっていた。それならば健也をボランチに起用しても活きる」

小野寺が38節秋田戦(△1-1)の69分からボランチに投入され、相手が中央に入れてくるロングボールをことごとく跳ね返し、試合のクローズに貢献したことは記憶に新しい。

 

果たして、今節はチームの分析どおりだった。

あの秋田戦の光景が繰り返されることになった。金沢が入れてくるロングボールをボランチに入った小野寺が最終ラインの手前に仁王立って弾き返した。

相手が徹底して狙ってきたサイドバックの背後のケアも、小野寺が淀みなく連続性のあるカバーリングで対処できていた。CB乾も「健也が指示通りに動いてくれたし、すごくやりやすかった」と舌を巻いた。

そして、35分にはFKから得意のヘディングで決勝ゴールをマーク。相手の3番手の選手のヘディングは強くない、というスタッフの分析どおりだった。小野寺が迷わず上から打ち勝った。

残留が掛かる大勝負において、不慣れなボランチで起用されながら役割を全うする。さらにプロ初ゴールとなる決勝ゴールも決めてみせた。

なかなか試合出場にありつけなかった選手が、少しずつ途中出場からチャンスを掴み、認められ、大一番で与えられたスタメンの座に動じることなくゴールまで決めてヒーローになる――。全員戦力、チームの一体感を大事にしてきた栃木で、それを成し遂げた価値はとてつもなく大きい。

練習は嘘をつかない。正義は勝つ。これだからサッカーは素晴らしい。栃木SCとともに歩めば、苦境に立たされても愚直にやり続ければ報われるとか、審判のミスジャッジで負けようとも受け入れて前に進まないといけない不条理さとか、人生において大事なことはだいたい学べる。こんな生きた教材はほかにないだろう。

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