【島崎英純】日々雑感-ポジション考察(2011/11/23)

堀監督が採用する4-1-2-3システム

ここ数日、浦和レッズの来季監督についてのニュースが飛び交っているが、今の段階でクラブと指導者の間で何らかの交渉が成されるのは当然の事象なので、特に異質でタイミングを逸した出来事でもない。ただ今の浦和は現場が残留を賭けて戦っている時期で、週末には重要なアビスパ福岡戦を控えている。このようなときに現場に混乱をもたらす動機を生みたくない。

指揮官やコーチ、選手は平静を装っているが、彼らだって普通の人間なのだ。自らの行末に関連するニュースが日毎に、しかも異なるアプローチで噴出すれば、心の平穏を得られるはずもない。したがって私は、監督の去就問題については全シーズンが終了してから言及したいと思う。それが今季、浦和の現場が最低限の結果を得るための最善策だと思うからだ。ご了承頂きたい。

さて、浦和は週末にJリーグ第33節のアビスパ福岡戦を控え、来週はついに最終節の柏レイソル戦を戦う。その後12月17日に天皇杯4回戦の愛媛FC戦、それを勝ち抜けば準々決勝、準決勝、決勝と、まだ浦和の2011年シーズンは続く。そこで、福岡戦にフォーカスした試合プレビューは金曜日に記述するとして、今回は堀監督が現在志向し、実践するサッカースタイルの中で特に重要なポジションについて考察したいと思う。

堀監督のサッカーで最も特徴的なのはやはり4-1-2-3のシステムだろう。私がなぜ堀監督の採用するシステムを4-1-4-1ではなく4-1-2-3と表記するのかというと、堀監督が選手たちに課すポジションごとの役割が既存のシステムとは若干異なるからである。

試合前に配られるメンバー表を見ると、浦和のシステムは確かに4-1-4-1と表記すべきようにも思える。例えば先日の第32節・ベガルタ仙台戦のスターティングメンバーのポジション表記はこうだった。

GK加藤順大、DF平川忠亮、坪井慶介、永田充、野田紘史、MF鈴木啓太、梅崎司、マルシオ・リシャルデス、柏木陽介、原口元気、FWエスクデロ・セルヒオ。

GKを除くと、DF4人、MF5人、FW1人のすみ分けである。それを踏まえて、DFの4バック、アンカーと呼称されるMFのひとり、攻撃的なMF4人、そして1トップを分けて4-1-4-1と表記するわけだ。

アンカーのファーストチョイスは鈴木啓太

しかし、私はシステムを、それぞれのポジションの役割を認識したうえで表記したい。そうなると当然4バック、そしてアンカーまでは明確に数字を分ける。そして前目の選手に関してはインサイドハーフのふたりと、得点に注力する両翼+1トップの3人を同期させたい。だから私は堀監督の志向するシステムを4-1-2-3と表記するようにしている。

堀監督のサッカースタイルにおいて明確に数字で示されるアンカー(「1」)とインサイドハーフ(「2」)は、指揮官の生命線だ。このポジションの機能性次第でサッカーの質が劇的に変化する。

現在浦和のアンカーのファーストチョイスは鈴木啓太だが、私は堀監督の理想形からすれば、本来は濱田水輝が適任だろうと思う。もしくはフィジカルが向上して守備能力がもう少し高まれば小島秀仁か。私的には小島の素養はアンカーではなく、ダブルボランチの一角、もしくはインサイドハーフだと思うのだが……。

ともかく、現在の浦和のトップチームにおけるアンカーは鈴木が務めていて、彼は自らの特性を認識してかなり守備に重きを置いた、堅実なプレーを実践している。鈴木は後方のセンターバックふたりとトライアングルを形成し、中央エリアの守備ブロックを固め、ビルドアップに関しては出来るだけ近くの味方にボールを預けるセーフティプレーを貫徹している。鈴木のプレーで最も目立つのは自らのポジションエリアに侵入してくる相手への積極的なアプローチとチャージで、このアンカーの働きによって、浦和は自陣での守備組織の堅牢さを高めている。

鈴木の割り切り方は潔い。自らにビルドアップ能力がなく、攻撃面に関する威力不足を認識している彼は、堀監督体制になってからポジションエリアの移動を控えるようになり、チーム全体のバランス取りに終始している。だが、これによって浦和は守備が安定し、特にセンターエリアのブロックディフェンスが強くなった。ちなみに堀監督体制で唯一大量失点を喫した第31節のジュビロ磐田戦は鈴木が出場停止で欠場した試合だった。 

鈴木はかねてから、自らの素養を自任している。

「俺にはスピードがないし、ドリブルやパスの能力も高くない。シュートも上手くないしね。でも守備に関しては譲れないものがある。特に、(イビチャ)オシムさんの日本代表に時に任されたワンボランチ(アンカー)のポジションについては自分が適任だと今でも思っている。去年、(フォルカー)フィンケさんの時の夏のオーストリアキャンプ中に4-1-2-3を試したでしょ。その時のアンカーは俺じゃなく違う選手が起用されたんだけど、結局(山田)直輝のケガなどでシステムが頓挫してしまった。でも今でも、『俺があの時にアンカーをやっていれば上手くできたのに』って思いがあった」

堀監督からすると、アンカーのポジションには当然守備の強さを求めるが、それに付随してビルドアップの起点などを期待する向きもあるだろう。しかし現在の浦和はJ1残留が至上命題であり、失点リスクを出来る限り軽減しなければならない。そうなった場合、守備に特化する鈴木のアンカーは現在仕様の浦和にマッチする。だからこそ今季残り試合、特にリーグ戦に限っては、アンカー鈴木の存在なくしてチーム戦術が成り立たない。

インサイドハーフの役割

さて、もうひとつ、堀監督のサッカースタイルにおいて欠かせないのがインサイドハーフのポジションだ。このポジションのファーストチョイスは柏木陽介と山田直輝になるのだが、山田直はU-22日本代表に選出されてしまったことで第32節・仙台戦、第33節・福岡戦に出場できないことは既報の通りである。

このインサイドハーフ、普通のポジションに比べて、かなりエリア間の移動を許容されている。山田直は皆さんご存じのように自らが様々なポジションに入り込むことであえて味方選手のポジション移動を活発にする『スイッチ』が特徴のプレーヤーだが、これはおそらくユース時代に堀監督が志向し、山田直に実践させたインサイドハーフのプレー内容が起因している。山田直は以前、私の質問に対して以下のように答えている。

私「僕は印象的に、直輝はボランチの選手だと思っていた。ユース時代にトップチームのサテライトリーグに参加して出場した君のプレーを何度も観たことがあるけど、その時の君は中盤の底で味方にボールを配給するタイプで、それほどアグレッシブには見えなかった」

直輝「(笑)。それはたぶん、僕がトップチームの試合に出たことで委縮してしまって、自分の持ち味の10分の1も出せなかったからだと思います。そもそも僕はボランチじゃない。どちらかといえばトップ下の選手だと思っている。ただしトップ下と言っても、前目の中央に常に留まっているわけじゃない。いわゆる王様タイプじゃなくて、いろいろなエリアに入り込んでプレーに関与したいタイプだと思う。90分間、常に動き回っているというか……」

私「じゃあ、直輝はマグロだね。もしくはカツオ? マグロもカツオもエラが動かせない回遊魚で、動きを止めると死んじゃう魚なので」

直輝「ああ、そうかも。僕も動きを止めたら自分じゃなくなってしまうから」

さて、現在の浦和におけるインサイドハーフは、これまた本来の堀監督の理想とするポジションの役割とは少し異なる仕事をしているように思える。おそらく指揮官の理想のインサイドハーフは、できるだけ前線の3トップ(両翼+1トップ)と密接に関係し、得点に関与するプレーを求められると思う。しかし現在の浦和はJ1残留が至上命題で守備に比重が傾いている上に、アンカーには鈴木という守備特性の高い選手が鎮座していることから、後方からのビルドアップの起点としてもかなりの責務を負っている。

攻撃面の閉塞感は打開できるのか

今の浦和のビルドアップの起点は当然センターバックの濱田、もしくは永田だ。だが彼らのボール保持時間はおそらくゼリコ・ペトロヴィッチ監督体制に比べて短くなっている。それはインサイドハーフの柏木や山田直、マルシオ・リシャルデスなどがアンカーの脇、もしくはバックラインと同列まで降りてきてボールを受け、組み立てに参加するようになったからだ。

今の浦和の体制ではボール保持力と展開力に優れるインサイドハーフがビルドアップの起点に関与した方がポゼッション力を高められ、危険な位置で相手にボールを奪われる確率も下がっている。実際、データ上でも柏木のボールタッチ数は非常に高く、柏木は90分間に、ある節の出場選手ナンバーワンである250回前後のボールタッチをしているという数字上の裏付けもある。その反面、インサイドハーフのプレーエリアが自陣寄りになるために、攻撃面に関しては殺傷能力が薄れ、得点力が減退する要素も孕んでいる。

理想はビルドアップ能力を有する守備能力の高いアンカーがいて、彼がバックラインと攻撃的な選手を繋げればいいのだが、今の選手陣容のバランス上、それは叶わない。また得点増よりも失点減を念頭に置く浦和の現状の戦いにおいては、守備的なアンカーを据え、インサイドハーフが後方でのビルドアップに参加する手法は短期的にチーム戦術を促進させるうえでは得策なのかもしれない。

懸念は一点だけ。結局堀監督に代わっても、攻撃面における個人依存は解消されていない。前述した通り、現状のチームが置かれた現状は十分理解したうえで、浦和が相手から得点を果たすためには原口、梅崎らのアタッカーが独力で相手守備網を打開しなければならない事実は変わらない。福岡戦で勝利を果たして勝ち点3をゲットし、最終節の柏戦の前にJ1残留を確定させたい浦和としては、この攻撃パターンの欠如が目標への足枷になるかもしれない。その辺りの詳細はまた、金曜日の原稿で言及しようと思う。

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