【前半部分無料掲載】浦研独占・原口元気インタビューー夢の途上で

2014年6月にJリーグの浦和レッズからドイツ・ブンデスリーガ、ヘルタ・ベルリンへ完全移籍した原口元気は今、ベルリンと日本代表を舞台に、その存在価値を示す戦いを続けている。浦和のアカデミーから純粋培養された彼が見据える夢と現実。今回、浦研プラスではドイツ・ベルリンで暮らす原口の元を訪れ、現状の思い、ヘルタ、日本代表、そして浦和レッズのことについて詳細に語ってもらった。

Text&photo by Hidezumi SHIMAZAKI(URAKEN PLUS)

ヘルタでの戦いと葛藤

Q 現在の調子はいかがですか?

「(ブンデスリーガ第3節の)シャルケ04戦は個人的にあまり良くなかったですけども、チームは3連勝だし、1節目、2節目は割りと自分の満足のいくパフォーマンスができて、スタートとしてはいいかなと思います(本インタビューは2016年9月19日に実施致しました)」

 

Q ヘルタが開幕から3連勝したのは初めてのことですが、好調の要因は?(2016年10月6日現在、ヘルタ・ベルリンは6試合を終えて4勝1分1敗の2位。首位のバイエルン・ミュンヘンを勝ち点3差で追っている)

「去年同様、しぶとくというか、3試合で1失点しかしておらず、攻守両面で全員でハードワークするというところが他のチームよりできている分、ポイントが取れているのかなと思います」

 

Q 第3節で対戦したシャルケは連敗したとは言え、強豪でした。そのようなチームに勝利して自信になりましたか?

「普通に戦えば向こうの方が力が上なので、難しいゲームになると思っていましたが、シャルケの調子があまり良くなかったこともあって、うまく勝てたかなと思います」

 

Q シーズン前はかなりスタメン争いが激しかったと思います。どのような思いで練習に取り組んでいたのでしょう?

「正直、去年の終わりからの流れは良くなかったし、ヨーロッパリーグの予選でも2試合ともベンチスタートで、難しい状況だなと思っていました。ただ一つひとつの試合で結果を出すことだけにこだわって、プレシーズンに点が取れたり、アシストできたりしたんです。また、開幕戦が大きかったかなと思います。直接はゴールに絡んでいないんですけども、2得点に関係して、パフォーマンスも良かったし、それが一番大きかったかな。そこでぐっと監督の信頼をもう一度つかめたかなと思います」

 

Q 浦和レッズ時代はポジション争いをするよりも、試合で活躍することが前提でしたが、ドイツに渡ってからは厳しい立場にも立ちました。そのような経験が生きているのでしょうか?

「必死ですからね。一回、一回の練習で本当に調子のいいところをアピールしないと、次の週にスタメンを外されることなんて普通にあることなので」

 

Q 一試合で変わってしまう?

「一試合でもそうだし、競っている状態だったら 一回の練習の状態で埋められてしまうので、なかなかシビアなところにいます。でも、逆に常に気を張っていて、勝手に一生懸命になれる状況なので、自分はそういう方が好きかなと」

 

Q チーム内のライバルの力が拮抗しているというのは初めての経験だった?

「そうですね。シャルケ04戦も途中から出てきた選手が点を取って、誰が出てもおかしくない状況ですし、僕のライバルは今、サロモン・カルー(コートジボワール代表。フェイエノールト、チェルシーなどに在籍)なんで(笑)。彼は去年15点くらい取っていて、そんな選手とポジション争いしなきゃいけないということもあって、一試合一試合が本当にファイナルのような気持ちでやっています」

 

Q 浦和時代の原口選手はボールサイドに寄るプレーが多かったですが、現在はむしろボールに寄らないプレーが多いように感じました。プレースタイルについて考えることも多くなったのでしょうか?

「浦和とヘルタでは役割が全然違うんです。システムも違うし、今は攻撃と守備が半々の割合でプレーしている。ただ、もちろん自らの攻守の比重は対戦相手との力量差によっても変わります。シャルケ04との試合は相手の力もあって半々でしたけど、開幕戦の試合(フライブルク戦)は7030くらいの攻守バランスでプレーできて、それが結果に繋がりました」

 

Q 試合によって役割が変化するのも仕方がないことなのでしょうか。

「仕方ないです。その中で結果を出すのが一番良いんですけども、そう簡単じゃないんですよね」

 

Q 日本代表にも繋がりますが、今の原口選手のプレーは以前と守備意識がまったく変わったように見えます。それはチームの中で課せられた責任感の表れなのでしょうか。

「責任感なのかな?」

 

Q それともチームで出番を勝ち取るため?

「そっちですね、どちらかと言うと。それをしないと、ただ単に攻撃の能力だけで勝負するとサロモン・カルーに勝てない部分がありますから。どれだけ攻撃に集中したとしても、ブンデスリーガで15点を取るのはそう簡単なことじゃないから。彼らに勝つには攻守でハードワークしつつ結果を出す、それしかないかなと」

 

Q Jリーグ時代もさぼっていたわけではないですが、自らの立場に対する危機意識が覚醒に繋がったのでしょうか。

「生き残る術じゃないですけども、ベンチとスタメンでは大きな差があるじゃないですか。僕はそこにこだわっていて、スタメンで出続けることがサッカー選手にとって一番大事なことだと思うんです」

 

Q ドイツでは自由に自分の力を表現できるという側面もあるのでしょうか。

「自分の中で守備ができるなって気づいたんですよ。ボールを取れるなって。元々、身体能力的にも、スピード的にも高いと自負しているので、守備をやればできるんですよ。普通以上にできちゃうなということに気づいて、だったらそこも伸ばせばひとつの武器になるなと思いました」

 

Q 守備で貢献すれば周囲に認められる可能性も高まりますからね。

「できればシーズンで15点取って、攻撃に力を注いでビッグクラブに行くのがベストなんですが、そこのパワーを伸ばすより、先に伸ばすべきところが見つかった感覚なんです。今は総合的な力を得るための努力をしているところです。この仕事量を減らさずにプレーし続けていれば、必ずもっと大きなクラブから声がかかる。ブンデスリーガでのプレーも3年目で、どれくらいの仕事量で、どれくらいの数字を残せば上のクラブに行けるかが分かってきたので、それを今年は目指して、それが達成できればまた一歩上に行けるのかなと思います」

 

Q ブンデスリーガの試合を生で見ると痛感しますが、ボールを保持できる時間がほぼない。それが普通で、ボールを受ける前に判断して次のプレーを考えないといけないと思いました。それに慣れるまでには時間が掛かりましたか?

「試合によってはボールを持てる時もあるのですが、相手の力量が上回った場合は自らの力の無さを感じるんです。楽にボールを持てて、ある程度ヘルタがボールを支配している時間帯は良いプレーができるんですけども、激しく攻防が続いているゲームでは、まだ自分の力が出せないと認識しています」

 

Q ブンデスリーガではプレースピード、パススピードの速さと正確な技術が求められます。Jリーグでプレーしていた時よりも相当レベルを高めないと、一試合戦えないのでしょうね。

「技術、身体能力、メンタル、そのすべてが揃っていないと、ここで活躍することはできないと思ったし、すべてが良いコンディションを保てていないといけないので、日本でプレーしていた時よりも気を遣います」

日本代表で示す、己の存在意義

Q ドイツでのプレーが日本代表のプレーにつながっている部分はありますか?

「ボランチでのプレーは難しかったですけど、ワールドカップ・アジア最終予選のタイ代表戦はヘルタで実践しているようなプレーを出せました」

 

Q タイ代表戦では守備も献身的でした。

「守備をするということ、これを自然に出せるようになった。もうひとつ上にいきたいという気持ちと仕事量を減らしたくないという気持ちがあるので。この仕事量で数字が出始めたら、また異なるプレースタイルを表現できると思います」

 

Q 先日のシャルケ04戦ではカットインからのシュートが1回だけでしたが、その好機でシュートを上に外してしまいました。

「チャンスが少なかったので、カットインできた時に『来た、来た』って思っちゃったんですよね(笑)。逆にそこが良くない。力が入り過ぎました。そこはメンタルの部分なんですけども、例えば『取られてもいいや』というドリブルの方が相手を抜けるんですよ。それはシュートでも一緒で、『GKにキャッチされてもいいや』と思って打つほうが、力が抜けて正確な角度でボールが飛ぶんですよね」

 

Q 好機で力が入ってしまうのは、浦和レッズ時代にも課題にしていました。

「そうそう。でも、その冷静さを保つメンタリティが外国人にはある。ボールを簡単に取られる時もあるけど、それでもプレーし続けるメンタリティとも言うんですかね」

 

Q その部分のメンタリティも、原口選手はとても変わってきたように見えます。

「でも、まだまだですね。特にビッグゲームになると余裕が持ちにくくなる。去年よりは良くなっているとは思うのですが。1対1で相手に負けない自信はある。でも、何故好機でシュートが枠にいかないかというと、平常心を保てないからだと思うんです」

 

Q 日本代表戦では、ロシア・ワールドカップ・アジア最終予選初戦のUAE代表戦に敗れてしまいました。

「途中までどのポジションで出場するのか分からなかったのでイメージしにくかったんですけども、ベンチに待機している時は『早く出たい』、『出たらガツガツ走って、ボールを取って、ヘルタでやっているようなプレーがしたい』と思っていました」

 

Q UAE代表戦では後半途中からボランチでの出場になりました。

「ボランチというか、ドイツで言うと8番のポジション。6番じゃなくて、長谷部さんが後ろにいて、僕は(香川)真司くんの下でプレーする感じでした」

 

Q よくダブルボランチという表現があるが、海外ではそういう言い方はあまりしないですよね。

「こちらでは6番と8番という表現をしますよね」

 

Q UAE代表戦では8番のポジションを任されて、どうでしたか?

「いやー、難しかったです。負けていて、相手に引かれて。でも、もうちょっと頭を使ってプレーできたかなと思うし、15分の出場でしたけども、チーム全体のプレーに変化をつけたかったです」

 

Q チーム全体が点を取らないといけないという思いが強すぎて、難しい状況だったと思います。周囲の選手のためにスペースを空ける連動したプレーもなかった中でボランチとしてプレーするのは、大変だったと思います。

「難しかったのは、ハリルホジッチ監督から『動きすぎるな』という指示があった点です。正直な話、中央からサイドに出ていって、そこからドリブルしてやろうかなとも思ったんですが、それはダメだと自分で判断してやめました(笑)」

 

Q ヨーロッパでは任されたポジションから動くなと指示する監督も多いですよね。

「その通りで、ハリルホジッチ監督の指示はノーマルなことだし、おかしな指示だとは思わないですね」

 

Q ただ、負けている状況では、また違った選択が必要かもしれない。

「リスクを冒していいとは言われたんです。ただ、8番で出場する時は『自らのポジション、エリアから動きすぎるな』と常々言われています」

 

Q UAE代表戦の結果は不本意でしたか。

「日本が負けること自体が悔しいし、ワールドカップという大きなものがかかっているので余計に思いは強まりますよね。でも、焦りはないです」

 

Q 初戦で敗戦した後にアウェーのタイに移動しましたが、その時のチームの雰囲気はどうでしたか?

「もちろんチーム全体が暗い雰囲気に包まれていましたけども、一人ひとりがいろいろな感情を持って、悔しい思いを皆が携えていたので、そこでニヤニヤして笑っているいる方がおかしいと思うので、別に僕は気にならなかったです。もちろん監督を含め、絶対に勝たなければならない雰囲気はひしひしと感じていましたけども、僕自身、チームでプレーして勝利に導く自信はありましたし、3日前くらいに先発で出場するという話も聞いたので、メンタル的には良い準備はできたんです」

 

Q タイ代表戦では先発で、最も得意とする左サイドのポジションでの起用でしたから、気合も入ったのではないでしょうか。

「事前に左サイドでの起用を明言されて、ラストチャンスだと思いましたね。左で結果が出なかったらボランチでも使われなくなるなと。ここで結果を残さなければスタメン争いができないぞという、追い込まれた状況でした」

 

Q 先発で生き残っていくための大事なゲームだったと思いますが、原口選手はゴールを決めました。

「ある程度のパフォーマンスはできましたし、一番こだわっていたゴールが取れたのは大きかった。でも日本代表はタイと力の差があるし、チャンスの数が明らかにヘルタよりも多いから、むしろ『取らなきゃならない』という気持ちでいました」

 

Q 相手の力量が落ちたとしても、ワールドカップ予選であることに変わりはないですよね。緊張感はありましたか?

「やっぱりありますよ。ワールドカップ予選でのスタメンは初めての経験ですし、プレッシャーは感じました」

 

Q プレッシャーを乗り越え、一つ踏み出せました?

「どの試合もプレッシャーを感じているんです。ヘルタの一試合、一試合で本当にポジション争いのプレッシャーを感じてながらやっているので、その部分ではタイ戦も同じですね。特に達成感といったものはないです。むしろ、自分は追い込まれているくらいの方が力を発揮できるんだろうなとは思いました」

 

Q 勝負したいのは左のワイド?

「もちろん! 代表の左はおもしろいですよ。だって、待っていたらボールが来るし(笑)。改めて楽しいなって思いました。でも強い相手になったら、また異なるプレーを求められる。ただ、その場合は普段ヘルタで実践しているプレーを代表でも活かせばいい」

 

Q 素の原口元気と異なる原口元気を、試合によって変えられる?

「そうですね。自然に『こういう感じだな』というのは認識できるようになりました。もう25歳なので、浦和時代を含めていろいろなことを経験してきて、『こういう時はこうしよう』というのは瞬時に変えられるようになってきたかな。一辺倒ではなく。『こうしたい』じゃなくて、相手を見たり、ピッチの中を見たりして、いろいろ変えられるようになったかなと」

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