日々雑感『青木拓矢—力強き鼓動』

恒例の別メニュー

青木拓矢は今季のキャンプでも、やっぱり全体練習から外れて別メニュー調整する時期があった。

筆者の記憶では2014年に大宮アルディージャから浦和レッズに移籍してきてから毎年、キャンプでは何らかの理由で別メニュー調整を強いられている。移籍初年度はミハイロ・ペトロヴィッチ監督の厚い期待を受ける中でのトレーニングマッチで左腎損傷を負って出遅れた。翌年以降も太ももの肉離れや足首の捻挫、膝の痛みなど、シーズン毎に様々な部位を負傷して戦列を離れていたので、2017シーズンの今季のキャンプも心配したが、今回は負傷ではなく、風邪による体調不良で2日ほど経って全快した。

1989年9月16日生まれの27歳。179センチ、79キロの平均的な体躯だが筋肉の芯が強固な印象で、フィジカルには自信があるように見える。しかし本人は「足は速くないし、力も強くない」と自虐し、あくまでも謙虚に、朴訥と自らを客観視している。

青木のプレースタイルを端的に表すなら、今流行りのサッカー用語で『ボックストゥボックス(box to box)』。この手の用語に疎い筆者だが、簡潔に説明すると、サッカーのピッチを俯瞰してゴールラインを底辺とするペナルティエリア内を『ボックス』に見立て、そこから対面のペナルティエリア(ボックス)までを行き来して攻守に積極的に関与するプレーヤーのことを指すらしい。自陣深くから敵陣深くまで上下動してプレーするのだから、この称号を得られるのは必然的にミッドフィールダーなのだろう。例えば、もしGKの西川周作が『ボックストゥボックス』と称されたら、相手ゴール前に飛び込んで自陣ゴールも死守するファンタジック(エキセントリック?)な守護神になってしまう。

『ボックストゥボックス』の概念に当てはめるとしたら、2000年代で代表的なのはスティーブン・ジェラード(リバプール/イングランド)やフランク・ランパード(チェルシーなど/イングランド)だろうか。また2017年の現在ではデレ・アリ(トッテナム/イングランド)やポール・ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド/イングランド)などがそうで、彼らの献身的かつ効果的な攻守へのプレー関与は、まさにチームの屋台骨を支えるMFとして認知されている。

青木が浦和レッズで求められる役割、それはまさに『ボックストゥボックス』のプレーであり、彼には内外からその期待を寄せられてきた。しかし本人に『ボックストゥボックス』などという言葉を振っても「ぼっ、?」という感じだから、ピンとこない面も……。

ペトロヴィッチ監督のサッカースタイルは特殊で斬新でありながら、実は非常に考え抜かれたメカニズムによって作用する『アクションフットボール』である。例えば現チームの代名詞的戦術の『後方ビルドアップ』。これは自らの『型』を有しながら相手陣形、相手戦略によってバリエーションを付ける裁量がピッチ上の選手に求められる。相手が2トップでプレスを掛けるなら3バック、1トップなら4バックとシステムを可変させるのはその一端で、そのメカニズムを統括して仕切るのはボランチの役割になる。また浦和のボランチには縦パス、サイドチェンジパスなどの攻撃発動の合図となるプレーアクションをも課せられる。中盤中央でボール保持し、味方と相手陣形を観察して急所を突くパスを打ち込む。キャプテンの阿部勇樹はこの能力を評価されてペトロヴィッチ監督の信頼に応え続けているし、昨季は本来シャドーでプレーし、チームのプレーメイカーとしてプレーする柏木陽介がボランチポジションで新境地を開拓した。柏木が中盤中央から繰り出す巧みなパスの数々、前線トライアングルに近接して発動するコンビネーションアタックはチーム戦術に新たな選択肢を与え、チームレベルを大きく引き上げる動機にもなったほどだ。

一方の青木は、大宮時代に発揮していた激しくピッチを上下動して攻守に関与する個性を浦和で表現できないでいた。卓越したボール奪取力、絶えずスプリントし続けられるスタミナ、30メートルのミドルパスを正確に蹴れるキック力、周囲と連動できる判断力は突出していたはずなのに、彼はペトロヴィッチ監督のサッカースタイルに順応できずに燻り続けた。

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