【大好評連載記念! 特別無料掲載】この街ー第5回『@2002 駒場』

 地元での日々

 国際通りで腹ごしらえを終えたオレたちは、再びレンタカーに乗って次に目的地へと向かった。車を運転しながら、ふと助手席に座る”ヨースケ”を見る。

 コイツとは長い付き合いになったなぁと思う。高校入学のときに浜松から越境で清水に来たヨースケは寮生活で、退屈なのか、よくオレの家へ遊びに来てたよな。

 オレの実家は清水市(現・静岡市清水区)の中心から少し離れたところにある。オレは3人兄弟の次男で、親父とお袋と5人家族だった。親父は近くにある清水漁港の市場に勤めていて、いつも朝早く家を出て夕方前に自宅へ帰ってくる。翌日も早朝から働くから、当然親父が寝る時間は早いのだが、高校生のオレらは部活を終えてからも忙しく遊んでいたから帰宅するのが遅くなるのが常だった。そんなとき、オレの後ろには必ずヨースケがくっついて来て、オレが自宅の玄関を開けた瞬間に響く親父の『雷』を聞いていた。

「お前ら、今、何時だと思ってんだ!」

 親父の小言がようやく終わると、ヨースケがオレの後ろからスッと現れて、「じゃあ、お邪魔します」と言って家の中へ入っていく。勝手知ったるもので、もはや親父の怒りが静まるタイミングまで熟知している。親父もまた、いつものことだからヨースケには気を止めもしない。とりあえずオレに小言を言っておけば腹の虫も収まるんだろう。ただ、よくよく親父の立場になって考えてみたら、貴重な睡眠を邪魔されてガヤガヤと家にやってくる高校生なんて、たまったもんじゃないだろうなぁと思う。それは今になってようやく分かったことだけど。

 それにしても、誰かに怒られやすいタイプと、そうじゃないタイプって絶対にあると思う。例えばヨースケはどこか飄々としていて捉えどころがないから、怒る側も拍子抜けしてしまうのかもしれない。逆に”シンジ”は明らかに優等生タイプで、アイツはそもそも人に怒られるようなことをしない。でもオレは何かにつけて誰かに怒られる。親父には当然叱られてばかりだし、学校の先生や部活の顧問も何かとオレに説教をする。ようやく学生生活を終えてプロになったときも、すぐに所属チームの監督に目を付けられたのは、もしかしたら必然だったのかもしれない。特に目立った言動も行動もしていないのに、なぜオレはいつも怒られてしまうのか。これは未だに永遠の謎で、その理由があるなら教えてほしいくらいだ。

「オマエはいいよな、ホント」

 考えていたことが思わず口に出たから、助手席のヨースケがびっくりしてこっちを見た。

「なにが?」

「いや、なんでもない。独り言だよ、独り言」

「ふーん、運転中に考えごととかしないでよね。危ないから」

 なんだ、ヨースケもオレに怒るのか。なんだか、もうどうでもよくなってきた。

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