遺産喪失、拭えない実力差 来季へ不安を抱く敗戦【島崎英純】2017Jリーグ第32節・鹿島アントラーズ戦レビュー

現状のベストメンバー

 浦和はGKに西川周作。バックラインはマウリシオ・アントニオが先発に復帰して阿部勇樹とセンターで組み、左右のサイドバックは日本代表に選出された槙野智章と遠藤航が務めた。この組み合わせは重厚な布陣で、堀孝史監督も信頼を置いているはずだ。またアンカーの青木拓矢は現体制で欠かせない戦力で、エリアカバー、プレス&チェイス、バックラインとの連係などの守備面、そして前への持ち出し、左右への広角パス、相手バイタルエリアへの侵入という攻撃面で多彩な役割をこなす彼はチームの核とも言うべき存在となった。

 両翼のMFは右・武藤雄樹、左・ラファエル・シルバで、この人選も定型になりつつある。ふたりのプレースタイル的にポジション適性がマッチしているかは疑問の余地もあるが、堀監督はボールキープ能力とフィニッシュワークに関われる彼らをサイドエリアに置いている。

 インサイドハーフは柏木陽介と日本代表初招集の長澤和輝。長澤は局地戦に秀で、柏木は文字通りのコンダクターとしてチームを操る。そして1トップは日本代表返り咲きの興梠慎三だが、最近は彼の孤立化が目立ち、得点力に陰りが生じている。それでも彼の個人能力は際立ち、たった1本のパス、クロスからでもゴールゲットできる能力を有している。

 かたや鹿島アントラーズはGKに曽ヶ端準、ディフェンスラインは伝統の4バックで、右から西大伍、昌子源、植田直通、山本脩斗。ダブルボランチはレオ・シルバと三竿雄斗のコンビで、サイドMFは右に遠藤康、左にレアンドロ。前線は2トップ気味に土居聖真と金崎夢生が配備された。大岩剛監督は最近レギュラーで起用している中村充孝ではなく、浦和戦で何度かゴールを決め、技巧的なキックで浦和守備陣を揺さぶれる遠藤を起用した。ここに相手指揮官の意図が読み取れる。

 堀監督はシステムを4-1-4-1に固定している。これは鹿島にとって与し易い状況を生んでいるのかもしれない。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督体制で用いた3-4-2-1は鹿島にとって難儀な形で、2012シーズンからこれまで、カシマスタジアムでの戦績は5勝1分で浦和が鹿島を圧倒していた(埼玉スタジアムでのホーム戦を含めると7勝2分2敗)。鹿島はダブルボランチがバックラインへ入り込む疑似5バックを形成したり、2トップが前線から激しくプレス&チェイスするなどして浦和のストロングポイントを消そうとしたが、逆に局面ギャップを突く浦和の戦略に嵌って結果を得られなかった。

 しかし、堀監督体制に移り変わって初めて鹿島と対戦した天皇杯4回戦は2-4の敗戦。浦和はハイラインの裏を取られてカウンターを浴び、サイドから攻略されて失点するケースもあった。戦況は、お互いにマッチアップする形で局面勝負が発生する中で機敏な鹿島のギアチェンジが際立つ。プレーエリアを変えての揺さぶり、サイドMFの巧みなポジショニング、ダブルボランチの攻め上がり、サイドバックのオーバーラップなどが有機的に連動し、一瞬の隙を突いて浦和守備網を打ち破る。鹿島は最初から浦和の弱点を読み切り、あえて勝負所で伝家の宝刀を引き抜く。そんなイメージを拭えない相手の所作に、今一戦を前にして一抹の不安を感じていた。

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