旅猫by浦研プラス&欧研プラス

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ヨーロッパ移住への道!10 『住居面談の結果は…』

 素晴らしい物件を見つけた僕は、先ほどから大家さんとの面談に臨んでいます。
「それにしても、今日は寒いわねぇ。いや、昨日も、その前も、ずっと寒かったわねぇ。一体、いつになったら暖かくなるのかしら? あっ、そうそう。部屋の中を案内するわね。玄関を入って、ここがリビング。ここは家具付きなのよ。ソファもテーブルも揃ってるわ。でも、テレビがないのよ。あっ、あっちに仕事のできるデスクはあるわよ」
 ここで知り合いの不動産屋・Oさんが質問してくれます。
「ここではインターネットなどを繋げられる環境がありますか?」
 すると、何やら苦虫を噛み殺したような表情になった大家さんが、何かのケーブルソケットを指差しながら早口でまくし立てています。
「Oさん、大家さんはなんて言っているのでしょう?」
「ああ、いや、少し問題がありそうなんですけどね。ちょっと、ややこしいので、あとで話しますね。でも、工夫すればインターネットは繋がると思います。大丈夫、大丈夫」
 このやり取りが後に大変な問題を引き起こすことになろうとは、その時の僕は知る由もありません。
 大家さんの話が続きます。
「こっちがベットルーム。シングルベッドがふたつあるわ。洋服ダンスもあるのよ。それで、こっちがキッチンね。テーブルと椅子があるから、ここで食事できるわよ」
 キッチンはなんと、壁の2面が窓になっていて採光が抜群です。また遠方には丘が見えるそうなのですが、この日は霞がかかっていて大家さんは残念そう。
「晴れている時は本当に景色が良いのよ。あなたたちにも見せたかったわぁ。本当に残念」
 ソファに座ると、大家さんの話は一層熱を帯びます。
「ここのアパートには中国の女の子も住んでいるのよ。アジア人の子は綺麗に部屋を使ってくれるから、私は大好きよ」
 ここでOさんが少し安心した表情を浮かべます。
「ドイツ人の中には、差別じゃないんですけども、他人種の方に部屋を貸すのを嫌がる大家さんもいるんです。でも、この方は大丈夫そうですね。中国の方も住んでいるようですし」
 案内してもらった部屋を見て、一層ここが気に入りました。ぜひ、ここに住みたい! そこで大家さんにさっそく、賃貸の希望を伝えました。
「わかったわ。でも、これから、あと2件面談があるのよ。そのひとつは、私の娘が持ってきた案件なの。だから、あなたとの契約をどうするかは明後日に連絡するわ。それまで少し待っていてね」
 大家さんと別れた後、僕たちは少し悲観的になっていました。
「娘さんの紹介って、それって一番優先されますよね? やっぱり駄目かなぁ…」
 Oさんが言います。
「確かに……。しかも周辺の環境や部屋の間取りなどを見ても、かなりの人気物件だと思うんですよね。だから娘さんの紹介の方が物件を内覧したら、余計に住みたいと思ってしまうかも。シマさん、この物件はあまり期待を持ち過ぎてしまうと駄目だったときに落胆が大きいですから、他の物件もリサーチしながら返事を待つことにしましょう」
 ホテルに着いてからの僕は「ああ、あの物件、やっぱり良かったなぁ」と思い返すことばかり。でも、まだ物件を探し始めて一軒目ですし、そんなに簡単に上手く行かないことは事前に聞いていたので、「仕方がないよなぁ」と思いながら過ごすことにしました。
 そして2日後。岡田さんからメールが入りました。
「やった! やりました! シマさん、あなたが大家さんから選ばれました! あの部屋に住めますよ!」
 やったー! そういえば今年は、いきなり交通事故に遭ったりなんかして幸先が悪かったんだよなぁ。その巡り合わせで、今回は幸運を引き当てられたのでしょうか。喜び勇んで大家さんに会いに行き、さっそくお礼を。今回はOさんの部下の“酒豪女子“Lさんも伴って住居へ行くと、Lさんのことを大変気に入った大家さんが「あなたのマニキュア、キレイねぇ」と言ってLさんを離しません。もしかして大家さん、借り主が僕じゃなくてLさんと勘違いしてる? 一抹の不安を抱えながら契約書にサインすると、どうやら僕のことを認識してくれている様子。いやー、良かった。勘違いされていなかった。ドイツ語が全然できない僕でごめんなさい。これから一生懸命勉強して世間話ができるようになります。
 気になっていた『娘さんの紹介』がどうなったのかを聞いてみると、大家さん、とたんに不機嫌な表情になりました。
「個人じゃなくて会社の事務所として使いたいって言ってきたんだけど、『あれを直せ』とか、『あれはないのか?』とか。とにかく要求ばかり言い出すもんだから、『そんな面倒くさいの、願い下げよ!』って言って速攻で断っちゃった」
 いやー、さすが! 大家さん、見事に竹を割ったような性格です。うん、今後のお付き合いの参考にしよう。
 いずれにしてもドイツでの移住生活、これでようやくひとつの問題がクリアしました。でも、この後も滞在許可証(ビザ)取得までの道のりは、長く、長く続くのでした。