浦レポ by 浦和フットボール通信

無料記事:少年が柏木陽介に伝えたい想い【大原練習場こぼれ話】

(Report by 河合貴子)

手作りのメッセージカードに秘められた想い

春休みになると大原の練習場には、たくさんの子供たちが目をキラキラ輝かせて選手たちが練習しているところを見つめている。春休み真っ直中の3月30日にも例外ではなかった。おそろいのジャージを着たガイナーレ鳥取の下部組織の子供たちなど見学にきていた。多くの子供たちの目的は、憧れの選手と写真を撮ったり、握手してもらったり、サインをして欲しいのだ。

浦和の場合は、ファンサービスの日が決まっていて、原則としてその日以外は、選手たちと写真を撮ったり、サインをもらったりすることができない規則となっている。だが、ファンの人々から声を掛けられると、それに応じてくれる選手も中にはいる。

柏木陽介選手は「規則じゃん。サッカーは規律が大事だ。何か、応じない俺とか悪者じゃん」とぼやいたことがあるほど、柏木選手はファンサービスの日以外はサインをねだられてもしない。

練習後、ロッカールームへと足早に引き上げて行く柏木選手に「サイン下さい」と子供たちから声が掛かると、少し申し訳なさそうな表情を浮かべて通りすぎた。

その時である。ひとりの少年が「柏木選手!渡したいものがあるんです!」と叫んだのだ。少年が握りしめているものを見ると、手作りの栞なのか御札なのか分からないが、裏には柏木選手へのメッセージが書かれているようであった。少年は、必死に叫んでいた。柏木選手は、一瞬足を止めて、行きかけたがすぐに踵を返した。

思わず、少年から渡したい物を預かり、チームスタッフを通して柏木選手へ渡してもらおうかと考えた。だが、それは少年が本当に望んでいることではない。がっかりした少年の顔を見ると、やりきれない思いが込み上げてきた。

しばらくすると、柏木選手は汗で濡れた練習着を着替えて再びピッチに姿を見せ、子供たちに「考えておく」と短い言葉を残して居残り練習のランニングを始めたのだ。ランニング、腹筋など筋トレ、ストレッチと一通り自分が考えていたメニューが終わると「春休みは、遊びに行けよ!!」「学生限定ね」と子供たちに言いながらも優しくファンサービスを始めたのだ。少し大人びた青年に「本当に学生なの?」と冗談を言いながらもサインをしていた。

そして「渡したい物があるんです」と必死に叫んでいた少年は、念願叶って柏木選手に手渡しすることができたのだ。少年にとって、柏木選手は憧れの存在で大好きな選手なのだろう。もの凄く、嬉しそうな笑顔を見せていた。その笑顔で、心が温かくなった。

背番号10が書かれたユニホーム型の手作りのメッセージカードには、きっと少年が柏木選手に伝えたい思いが込められていたのだろう。それを手にした柏木選手も幸せそうな笑みを浮かべていた。少年の伝えたい思いが、柏木選手の心を動かした瞬間であった。今度は、少年の想いを柏木選手がピッチの中で応える番だ。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ