浦レポ by 浦和フットボール通信

3分かからず出た1つの形 相手が教えてくれる良い攻撃のやり方【轡田哲朗レッズレビュー/J第1節FC東京戦】

(Report by 轡田哲朗)

スタメンだけを見ても、新旧の融合があった

浦和レッズは27日のリーグ開幕戦で、FC東京と1-1で引き分けた。2007年シーズン以来のホーム開幕は、リカルド・ロドリゲス新監督の初陣ということでも注目を集めた。そのゲームは阿部勇樹がセットプレーのこぼれ球を押し込んで先制したものの、FC東京の森重真人にフリーキックを頭で合わせられて失点。結局、セットプレーの1点ずつで引き分けることになったが、阿部の「やはりチームが勝たないと良いスタートとは言いづらいです」という一言があった上での、「監督のやりたいサッカーをみんながそれぞれ理解してきた中でそういったシーンが多く出せましたし、やっていて楽しいと思いました」というのは、過不足なくこの試合を表しているような気がしている。

スタメンを見ると、伊藤敦樹はルーキーとして2010年の宇賀神友弥以来となるリーグ開幕戦でのスタメンを勝ち取った。移籍加入の選手も明本考浩と小泉佳穂の2人がスタメンに名を連ね、それもJ1からの移籍ではなくJ2からの移籍だった選手だから、より新鮮味があったかもしれない。その一方で、伊藤敦樹とダブルボランチを組んだキャプテンの阿部はシーズン中に40歳になる年齢で、それこそ2007年の開幕戦を知る選手だ。最終ラインの4人とGK西川周作はいずれもJ1での経験が非常に豊富。FC東京の森重は試合後に「ディフェンス陣はいつものメンバーでベテラン勢が支えて、前線のところで若手が躍動する。そういう新しいレッズが垣間見えた気がした。攻撃的な選手が多いので、攻撃サッカーとなると力を発揮すると思った」と話したけれども、その言葉はメンバー構成の本質をついているように思う。

開始3分を前に出た今季の狙いが共有された攻撃

それで、どんな感じになるかなと立ち上がりを観察していると、3分と経たずに1つ狙いとするものが凝縮された場面が現れた。中盤のやや右サイド寄りで小泉がファウルを受けたところから始まったマイボールシチュエーションは、さほどプレッシャーなく左サイドのライン際でベタ張りした汰木康也のところまでボールが回っていった。

この時、後ろが枚数過多になることを感じた山中亮輔は、インサイドを一気に駆け上がって、左のシャドーの位置まで進出している。もちろん、相手の動向次第では汰木と山中がワンツーで抜けるようなことも選択肢だけれども、ここでは1回スローダウンを選択。左センターバックの槙野智章にボールを下げた。

秀逸だったのはここからの動きだ。この時点で最終ラインは槙野と岩波拓也の2枚。まずボールホルダーの槙野に対して、FC東京は右インサイドハーフの東が、1トップのディエゴ・オリヴェイラの横から突撃してきた。ディエゴは基本的に、浦和のダブルボランチの間に立つような所作を見せているので、槙野はシンプルに岩波へ回す。この時、東は背中で槙野を消しながら岩波にも突撃したので、結果的に2枚を消されることになった。

リカ監督のサッカーは、攻撃的なマインドを持ちつつも、そのプレー選択にはリアクションの側面がある。もし東が槙野の前に立つだけなら岩波との2枚で良いけれども、さらにプレスに走ったことでリターンパスができなくなった。この時、状況の解消に動いたのが右ボランチの位置にいた伊藤敦樹で、岩波と宇賀神の間に入ってくることでパスコースを作る動きをする。

岩波から伊藤敦樹にボールが出た時、FC東京は左インサイドハーフの安部がボールに向けて突撃してくる。この時、小泉は安部の動いた後の場所を取りに来ることで、相手のアンカーを引っ張り出しているし、レアンドロの注意も引いている。レアンドロの立場からは、小泉が自分の視界に入ってきた瞬間、外を取っている宇賀神が視野から消える。ここで、宇賀神は一気にスプリントしてサイドの高い位置へ走り込み、そこに伊藤敦樹からロングボールが飛んでくる攻撃になった。

この時、共有されているのは左サイドからゆっくりとボールを動かしてきた中で、右サイドの奥を狙っていこうということ。先ほどの山中の動きで前線は相手の最終ラインと4対4を作り出しているので、基本的にはピン止めすることができている。5レーン的な話をすると、右の大外レーンを開けている状態になるので、そこを「誰かが」取りにいく。この助教であれば、宇賀神のオーバーラップが適切な選択肢になった。

リカ監督のサッカーでは、こうやって相手の動きと枚数に応じてポジションを変えてボールを動かし、最終的にサイドの奥、できればニアゾーンとも言われるペナルティーエリアに入るかどうかのゴールに近い位置のサイドを取りにいくことが共有事項にある。その狙いはキャンプから繰り返していたので、いきなり試合で出せるのかという驚きもあった。

だから阿部は試合後に「最初の試合でしたが積み重ねてきたものが出せた部分があります。監督のやりたいサッカーをみんながそれぞれ理解してきた中でそういったシーンが多く出せました」と話したのだろうし、この攻撃アクションの中で重要な役割を果たしていた伊藤敦樹や小泉がいきなりスタメンを掴んだのも納得ができる部分だったのではないかと思う。

小泉や明本の良さと、連続性を改善したいという話

開始3分の1プレーに対して恐ろしく掘り下げてしまったけれども、細かいところでリカさんになってから変わったところはたくさんあるし、それが個人のスキルによる部分もある。例えば小泉は、相手と相手の間に立つ時、その2人を結んだライン上より少し後ろに立つことができる。ここに対して入ってきたパスを出し入れすると、相手は首を2回振ることになる。この2人を結んだラインよりパスの出し手側に立っていると、相手が首を振る回数は0回になる。このちょっとした負担の違い、積み重ねが相手を崩すプレーにつながるし、これができない選手が昨季の浦和に多かったことは何度も指摘したと思う。そういう意味では、初戦を見ただけで彼を獲得したことの良さは感じられたのではないか。

また明本考浩に関しても、「森重をケツで弾いた」あのプレーが驚きを与えたかもしれないけど、フィジカルバトルではJ1でも負けないことを示したように思う。プレスバックで強度を出せるし、スタメン起用されるかなと思っていた武田英寿とはまた違った良さを出してチームに推進力を与えた。FC東京の長谷川健太監督は、この試合を振り返って「前が推進力を出せなかった」と言っていたけれども、それで言えば小泉や明本はFC東京のブラジル人選手たちよりもチームに前向きな勢いを作ったと思っているし、試合に対する貢献度は高かった。

ただ、小泉も多少その部分はあるけれども、プレーの連続性みたいなところでJ2とJ1の違いが出ているところはあった。右サイドの低い位置で明本が頑張ってボールを奪い返して味方につないだ時、その味方から見れば次にボールを出す場所は明本が動いてくれないと見つからない、なんていうところで休んでしまう時があって、こういうところが改善されると、より良くなるんだろうとは感じた。

日本サッカーは確かにJ1とJ2、つまり1部と2部の差が小さいリーグ戦だけれども、差が出るのはこういうところだと思っている。J2で自分の得意なプレーで違いを作れる選手は、J1でも得意なプレーは通用することが多い。ただ、こういうプレーの連続性とか、メンタルの連続性みたいなところが長くJ1でプレーできる選手と、すぐにJ2に戻ってしまう選手を分けると思っているので、彼らには浦和で長くプレーしていって欲しいと思うからこそ期待したい。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ