浦レポ by 浦和フットボール通信

試合に生きるトレーニングと、ボールを持てずとも致命傷にならなかった理由【轡田哲朗レッズレビュー/J第14節G大阪戦】

(Report by 轡田哲朗)

「流れ」の正体は、取り得る選択肢の広さではないか

浦和レッズは16日のリーグ第14節、ガンバ大阪戦に3-0で勝利した。ガンバは監督解任から暫定的にクラブの役職と兼務する松波監督が率いる1試合目で、いわゆる“解任ブースト”の起こり得る状況にあった。一方の浦和は、単純に言えば中3日と中6日のコンディションとスケジュール的な優位性がある状況下で、柴戸海を負傷離脱から復帰させ、田中達也も久々となるスタメンのピッチに立たせた。そこで田中が1ゴール2アシストをするのだから、うまく回っている時のチームは本当にこういうものだと思う。

そういうと、「非科学的なことを」となってしまうのかもしれないけど、こうした「流れ」みたいな話は取り得る選択肢の広さに起因すると思っていて、9日のベガルタ仙台戦で結果を出していて関根貴大のプレーに信頼を置けるからこそ、トレーニングで良さそうに見えた田中をスタメン起用できる。なぜなら、ハマらなかったら後半に戻せば良いという安心感があるからだ。これが結果の出ていないチームだと、決断にブレーキが掛かりやすいので、関根をスタメン起用する監督が多くなるだろう。そうやって、一部主力に疲労が溜まっていって、使われない選手のコンディションやモチベーションも落ちる。試合中のプレー選択も似たようなもので、スポーツやゲームでよく言う「流れ」の正体はこんなところじゃないかと思っている。

トレーニングとリンクする場所がかなり多かった

この試合に向けたプレビューで、リカルド・ロドリゲス監督のやっていたトレーニングメニューを紹介した。図などはそちらで確認していただきたいけれども、ハーフコートのサイドが特殊タスクで半分より自陣に戻らせてもらえないので、守備側は4-4-2のブロックを組ませてもらえない。サイドが詰まった状況で始まることもあれば、仕掛けに入る始まり方をすることもある。そして、このサイドの役割をやる選手を誰にするかは、当然ながらリカさんが指定することになる。

その選手に、この試合でゴールに絡むアシストを両サイドから入れた明本考浩と田中が含まれた。他にも山中亮輔や汰木康也、関根、武田英寿、大久保智明といった選手たちもこの位置でやることがあった。これが試合とどうリンクするかというと、単純な最終局面の話だけでなく、ビルドアップから敵陣に入っていく過程で「大外のレーンを使う選手をハッキリさせましょう」という意味合いになってくる。だから、明本や山中はサイドハーフの練習をしていたのではなくて、スタートのサイドバックから敵陣に入り込んでウイングの位置を取る状態を固定して練習していたと捉えた方が良い。このガンバ戦で言うと、右は田中で左は明本が大外を取ることを基本にして、その内側のレーンを右は小泉、左は武藤雄樹が使いながら、後ろからサポートも入ってくるという関係になった。

その観点からこの試合でのゴールを見ていくと、1点目は右サイドが詰まったところから中央経由で左に持っていくのだけど、幅を取る明本に対してガンバはサイドハーフのチアゴ・アウベスが降りたので、そこにスペースができることになる。バックステップを切りながらそこにズレていってボールを受けた阿部勇樹と、アウベスと右サイドバックの奥野の間に顔を出した武藤の関係でクロスまで持ち込んだ。

大事なのは、このクロスがファーサイドに流れた時に田中が間に合っているということ。プレビューのトレーニング画像でも少し触れたけれども、逆サイドにボールがある時は反対側のサイドから斜めにゴール前へ入っていくOKが出ているし、むしろ求められている。田中の短い折り返しをキャスパー・ユンカーが決めたのは素晴らしいのだけど、右の大外レーンを取っていた田中がペナルティーエリア内まで入ってきていたのは重要なところだし、練習が生きたと言える。

また、2点目で言うとユンカーの大きなサイドチェンジを受けた明本が、目の前に相手と1対1の状態を迎えた環境こそ、このトレーニングで訪れることのあるスタート地点、素早く仕掛けて攻め切るべき状況の再現だったと言える。ユンカーのサイドチェンジを褒めるのも良いんだけど、こういう素早くゴール前まで持っていくべき攻撃を躊躇していたのが今季の始動から出ていた課題だから、そういう意味でもトレーニングは生きているし、チームの改善につながっている。

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