松沢呉一のビバノン・ライフ

風営法改正案を目にした時に、なお唸らざるを得ない(松沢呉一) [シリーズ 風営法改正案を読む」 -2,637文字-

自宅の横にクラブがあってもいい? 風営法改正を見極めよう

 

vivanon_sentenceクラブ摘発を契機にした風営法改正の動きが表面化したのは2012年のこと。その前段において、私も一定寄与したところがあります。詳しくは磯部涼編『踊ってはいけない国、日本』に書いた拙稿を参照ください。

踊ってはいけない国、日本 ---風営法問題と過剰規制される社会こういう流れから、イベントを組んだり、飲食店相手のレクチャーをしながら、積極的な発言を続けていたのですが、思っていたような流れを作れなかったため、「こりゃあかん」と議論から離脱します。風営法については以前からずっと考えてきているので、以降はその延長として、メルマガでコツコツと論じるに留めてきました。

私は風営法は必要だと思っています。多くの国民もそう思っています。しかし、風営法不要論を掲げ、法律を敵視し、警察を罵倒するような人たちもいます。警察を批判すべき状況というものはあるし、批判し続けないと増長もします。

しかし、法律にせよ、警察にせよ、批判すべき点をしっかり見極めないと、ただの暴論であり、その批判は有効にはならない。JASRACへの対処と同じです。「アホがなんか言ってるぞ」で終わります。

当時、私はクラブでDJをする人たち、クラブで働く人たち、クラブで踊る人たちにも聞いて回っています。

「自宅の横にクラブがあってもいい?」
「自宅の横にストリップ劇場ができてもいい?」
「自宅の横にパチンコ屋ができて、朝まで営業してもいい?」

すべて受け入れる人は1人もいませんでした。享楽的な産業は存在していていい。あるいは、存在していて欲しい。しかし、そこには一定の制限があってしかるべきだと皆さん思っています。その感情は全然間違っておらず、多くの人は住宅環境にそれらの産業が入り込むのを嫌うし、住宅ではなくとも、それらの産業が学校や病院、図書館などに隣接することも好ましいこととは思っていません。それらの産業で働き、利用する人たちもそうなのです。

広くそういった感情は存在する。それを無視してゴリ押しをすれば、産業そのものが存在できなくなりかねない。産業の事情、利用者の事情と、それを忌避する感情とを調整するのが法律であり、この場合は風営法です。その線引のありようが適切かどうか、過剰ではないかという疑問は当然出てきて、クラブについては「ルールさえ守れば深夜までやっていいんじゃね?」というのが私のスタンスです。

多くの国の、多くの地域でもこういう規制は存在します。中国ではそれなりにランクの高いホテルの中に売春する施設が入っていたり、普通の商店街にも存在していたりして、法律ではない別のルールが支配している場合もあるわけですけど、成文化された法律か、そうじゃないかの違いで、享楽的産業において、なんのルールも存在しない場所はほとんど存在しないと思います。

ダンス営業を法で規制していなくとも、酒で規制している国はいくらでもあることは「世界でもっとも楽しい都市ランキング2部門で東京が1位」のカラクリで書いた通り。酒を飲んで踊って騒ぐような業態は、どこかで規制を受けることを覚悟するしかないのです。

まあまあ、なあなあのコミュニティが崩壊した社会で

 

vivanon_sentence日本では一応法律が支配しているわけですけど、今までは法律の周縁部に余裕を持たせて、「まあまあ、なあなあで」とする傾向がありました。その周縁部においては、裏社会が支配することもあれば、地域コミュニティのルールが支配することもあったわけです。

地元の政治家が電話一本入れて解決したり、業界と警察が酒飲んで便宜を図り合うような世界です。政財界だけではなくて、駐在所のお巡りさんは、地域住民の中に溶け込んで、民事レベルにまで介入していた時代がありました。住民は介入されたなんて思わず、「お世話になりました」と菓子折りを持っていく。上も下もなあなあでうまいことやっていたわけです。

しかし、法律ではないルールは通用しない時代になっています。「国家権力が横暴になってきている」というだけじゃなく、国民が法に依拠する度合いが強まってきて、「まあまあ、なあなあで」が通用しなくなってきています。インターネットを見てもそのことはわかりましょう。すぐに法を持ち出して、「それは脅迫罪だ」「名誉毀損だ」とやる。さらには「通報しろ」とやる。国民は自ら法を強化し、望んで警察力に依存をし始めています。これは必然なのです。

この辺の事情はこちらのインタビューをお読みください。タイトルが変だし、長いですけど、風営法をどう考えたらいいのか、時代の変化から理解がしやすくなると思います。

スクリーンショット(2014-11-11 22.45.47)こういう時代になってきている以上、よりよい状態を求めるのであれば、法律を尊重しつつ、法改正をしていくのが好ましい。法律や警察を全否定してもしょうがない。

そういった考えから、私はいち早く、「クラブの摘発に対しては法改正で対抗する以外にない」と言ってきたわけです。実際、クラブは違法状態を続けてきたんですから。

法はどう改正されるのが理想か、そして現実はどうだったか

 

vivanon_sentence今となっては実現不能の理想でしかないとも言えるのですが、私としてはできるだけ正確に皆が風営法を理解し、多くの人が参加する議論によってより適切な改正を求めるべきだと考えてました。また、他業種にもメリットのある形にすべきだとも思ってました。クラブ業界がクラブの利益を追い求めるのは当然です。そのために、他業種がその煽りを食らわないように、他の業界の人たちも声を挙げるべきだと。

 

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